社会科学:気候変動が最貧困層の国外移住の妨げになる可能性
Nature Climate Change
2022年7月8日
気候変動が原因となって、サハラ以南のアフリカ、北アフリカ、旧ソビエト連邦の最も所得水準の低い人々の国際移動性が、2100年までに最大10%低下する可能性があり、もっと悲観的なシナリオでは、最大35%低下する可能性のあることが、モデルを用いた研究で明らかになった。この研究結果について報告する論文が、Nature Climate Change に掲載される。
移住は、気候変動への適応戦略として、ますます利用されることが予想される。しかし、気候変動のために、最も貧しい地域のいくつかでは資源が枯渇し、移動する経済的余裕のない人々が域内から出られなくなる可能性が高い。最近の研究では、さまざまなモデルを用いて、将来の気候変動が移住に及ぼす影響を調べているが、資源の限られた人々の国際移動性の限界については、まだ解明されていない。
今回、Hélène Benvenisteたちのは、気候変動のために資源に困窮したことを原因とする非移動性の影響を定量化するため、越境移住と送金(所得分布を含む)のモデルを作成し、それを統合評価モデル(全球気候–経済モデル)に埋め込んだ。そして、21世紀における今後の展開と気候変動に関する5つの異なるシナリオに沿って予測演習を実施し、移住のさまざまな推進要因を明らかにした。次に、気候変動が資源の困窮とその後の非移動性に及ぼす影響を組み込んだ。その結果分かったのは、気候変動が、世界の少なくとも数地域の最貧困層の国際移動性の低下につながることだった。温室効果ガス排出量が2040年までにピークに達し、経済動向が大きく変化しないというシナリオの下では、所得水準が最も低い人々の国際移動性は10%以上低下する可能性が示された。この結果は、資源に困窮したことを原因とする非移動性が、気候と移住の関連において重大な役割を果たしている可能性が高いことを示唆している。
Benvenisteたちは、今回の知見は、気候変動の影響が最貧困層にとって壊滅的な影響となる可能性と適応手段としての移住の限界を裏付けるものだとする見解を示している。
doi:10.1038/s41558-022-01401-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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