生態学:減りつつある花粉媒介者をめぐる競争によって植物の多様性が減少する
Nature
2022年7月21日
花粉媒介昆虫を奪い合う状況になると、植物種の共存能力低下という効果が生じるという結論を示した論文が、Nature に掲載される。この効果は、植物の多様性に影響を与える可能性があり、花粉媒介者の数が減るにつれて強まると予想されている。
花粉媒介者が世界的に減少しているという観察結果が明らかになり、植物多様性の維持における花粉媒介者の役割をより深く理解することが必要になった。花粉媒介者をめぐる競争が激化すると、植物が適応して独自のニッチを確立せざるを得ない状況がもたらされ、植物の多様性が増加するという予測が、生態学の理論で示されている。しかし、こうした競争によって一部の植物種がニッチから排除され、植物群集の多様性が減少するという逆説的な結果がもたらされる可能性もある。
今回、Christopher Johnsonたちは、このように対照的な影響が生じる可能性を調べるため、5種類の一年生顕花植物種(ケシ、ヤグルマギク、クロタネソウ属の植物種を含む)を圃場で栽培する実験を行った。この圃場では、これらの植物の栽培密度を徐々に変化させて、花粉媒介環境を操作した。これらの植物については、通常の環境レベルの花粉媒介者にさらすか、補助的な人工受粉(それによって植物種間での花粉媒介者の奪い合いを減少させる)による支援を実施した。その結果、花粉媒介者をめぐる競争があると、植物種間の相互作用が不安定化し、そのために共存する植物種が減少した。また、植物と花粉媒介者の相互作用が、植物種間の競争上の不均衡の一因になっていた。この競争上の不均衡は、花粉媒介者の減少によって悪化していくとJohnsonたちは予想している。さらに、花粉媒介者の減少を促進した実験では、花粉媒介者の花への訪問回数が急激に減った植物種が、個体群成長率を大きく減らしたことが明らかになった。
Johnsonたちは、植物が花粉媒介者の注意を引こうと競争する際に、植物種間の相互作用がどのように弱められ、競争上の不均衡がどのように激化するかが、今回の知見によって明らかになったと結論付けている。そしてJohnsonたちは、この情報は、花粉媒介者の減少が生態学的にどのような結果をもたらすかを明らかにする上で非常に貴重な情報になると述べている。
doi:10.1038/s41586-022-04973-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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