保全:大型肉食動物を絶滅から守るためには効果的な法律が必要
Scientific Reports
2022年7月22日
トラ、オオカミ、ワシなどの大型肉食動物の個体数減少を食い止め、絶滅リスクを下げるためには、効果的な国内法と国際法が必要だとする論文が、Scientific Reports で発表される。今回の研究で評価された肉食動物種(362種)のうち、絶滅リスクが本当に低下していたのは、わずか12種(大部分は海洋哺乳類)だった。国際法制によって保護されている肉食動物は、そうでない肉食動物の6.8倍も絶滅リスクが低下しやすくなり、狩猟計画が管理されている肉食動物は、そうでない肉食動物の3倍も絶滅リスクが低下しやすくなったことも明らかになった。
大型肉食動物は、生態系において重要な役割を果たしているが、広大な生息域を必要とし、繁殖率が低く、人間との衝突の可能性が高いという共通の特徴のために、保護が特に難しい。
今回、Adrian Stier、Kurt Ingemanたちは、既存のデータベースを用いて、主要な6つの分類群(サメ類とエイ類、硬骨魚類、両生類と爬虫類、鳥類、陸生哺乳類、海洋哺乳類)から362種の肉食動物種を同定した。このリストには、ヒョウ、キハダマグロ、ソウゲンワシ、インドガビアルなどが含まれている。Stierたちは、2019年の国際自然保護連合(IUCN)のデータベースを用いて、これらの肉食動物種の個体群動向と絶滅リスク状態に関するデータをまとめ、大型肉食動物種の137種(37.8%)が絶滅危惧種(「危急」、「危機」または「深刻な危機」)と考えられると報告した。絶滅危惧種の占める割合が最も低かったのは海洋哺乳類(26.5%)だった一方で、エイ類とサメ類の60.9%が絶滅危惧種と判定された。
次に、Stierたちは、IUCNが個体数の増加傾向を示しているかどうかとIUCNのレッドリストによる危機の程度が当初の評価より小さくなったかどうかに基づいて、大型肉食動物の個体数の回復を評価した。上記2つの基準のいずれか、または両方によって、39種(10.7%)に個体数の回復が認められたが、ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)やトド(Eumetopias jubatus)などの海洋哺乳類に集中していた。陸生哺乳類では、スペインオオヤマネコ(Lynx pardinus)だけが、2つの基準の両方を満たしていた。そして、Stierたちは、選択的保全活動のパターン(例えば、生息環境保護、狩猟規制)と肉食動物種の個体数に回復の兆候が見られるかどうかを比較した。国内・国際法制と環境保全区域の存在が、肉食動物種の絶滅リスクの低下に関連していることが判明し、Stierたちは、以上の研究知見によって、大型肉食動物の個体数減少を食い止められるというかすかな望みが出てきたという見解を示している。
doi:10.1038/s41598-022-13671-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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