微生物学:1つのスイッチによって、大腸菌が昆虫にとって有益なパートナーになる
Nature Microbiology
2022年8月5日
大腸菌の実験室株に1個の変異を導入することによって、この細菌とカメムシとの間に急速に有益な関係(共生関係)を作り出せることを報告した論文が、Nature Microbiology に掲載される。これらの知見は、有益な微生物がどのように宿主と共に発展してきたのか、このような関係を生み出した分子機構は何かについて、理解を深めるのに役立つだろう。
微生物は、多くの場合、宿主と共生関係にあり、つまり宿主と微生物双方がこの関係から利益を得ている。共生関係は自然界に広く見られ、ヒトと腸内微生物相をはじめ、植物と根に住みつく細菌などがあり、昆虫は1〜2種類の微生物と共生していることが多い。しかし、このような宿主と微生物との共生関係がどのように生じたのかは不明である。
古賀 隆一(こが・りゅういち)、深津 武馬(ふかつ・たけま)たちは今回、悪臭を放つ昆虫チャバネアオカメムシ(Plautia stali)を使って、通常はその体内には住んでいない大腸菌E. coliの進化を調べた。進化の速い種類の大腸菌株をカメムシの腸に住み着かせ、カメムシ12世代(約2年間)にわたって、大腸菌を進化させた。最初は、大腸菌の住み着いたカメムシは生存率が低下し、体が小さくなり、体色が緑ではなく茶色になった。しかし、7代目以降(約1年後)、進化した大腸菌がカメムシの健全性を支えるようになった。さらに詳しく調べたところ、これらの大腸菌は全て1つの同じ変異を持ち、そのおかげでカメムシに利益をもたらすようになったのである。
著者たちは、これらの知見は、宿主に有益な共生関係が迅速に発生することを示しており、微生物とのこの種の共生関係が自然界に広く見られる理由はこれで説明できるかもしれないと結論付けている。
関連するNews & ViewsではMartin Kaltenpothが、この研究は「この自然界の多様な関係をうまく表す追跡可能な系を作るという方向に進む大きな一歩」であり、このような系があれば「分子レベルから生物体レベルに至るさまざまなレベルで宿主との共生関係を解析し、操作できる」だろうと述べている。
doi:10.1038/s41564-022-01179-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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