摂食障害:2人の患者の過食症に対して有効だった深部脳刺激による治療
Nature Medicine
2022年8月30日
過食性障害(むちゃ食い症)で重度の肥満の2人の被験者に対し、食物への渇望に関連する神経活動パターンをガイドとして用いて脳深部刺激を行ったところ、摂食量の自己管理と体重減少に改善が見られたことが報告された。この知見は、現在実施中の臨床試験で得られた結果の一部であり、制御不能な摂食行動を示す人々を生理学的に誘導された閉ループ脳深部刺激によって治療することの実現可能性と安全性が実証された。
制御不能な(LOC:loss-of-control)摂食は全ての過食症例で見られ、食欲の合図や食物渇望に対応する抑制的制御の喪失を特徴とする。LOC摂食を示す人は多く、重症度が高いにもかかわらず、肥満の治療法の大半はLOC摂食に直接取り組んでいない。そのために肥満外科手術のような最も積極的な治療法の効果が限定的なものになっている。
今回、C Halpernたちは、過食性障害と治療抵抗性の重度の肥満(クラスIII)と診断された2人の患者(45歳と56歳の女性)で、脳側坐核の腹側領域と背側領域での電気生理活動のパターンを6か月間にわたって記録した。2人の患者の脳活動測定値は、標準的な食事の際の食物への期待に関連する時間帯と、食物渇望とそれに続くLOC摂食に関連する時間帯とで集められた。Halpernたちは、これらの測定データを用いて、両方の患者で食物渇望とLOCに特異的に関連する低周波の脳活動シグネチャーを明らかにした。次に、この新たに見つかった脳バイオマーカーを使い、応答性脳深部刺激または閉ループ脳深部刺激を行う装置を用いて2人の患者の側坐核の脳深部刺激を実施した。この脳刺激の6か月後に、2人の患者の両方でLOC摂食事象の大幅な低下とその後の体重減少が観察された。そして、患者の1人は過食性障害の診断基準を満たさなくなった。この方法では、重篤な副作用の報告はなかった。
このパイロット研究の予備的結果は、こうした新しい介入法の臨床での実現可能性を明確に示しており、今回よりも大規模な過食性障害患者コホートによる研究の継続を後押しするものである。
doi:10.1038/s41591-022-01941-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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