がん:乳がんの個別化治療の転帰がゲノミクスによって決まるかもしれない
Nature
2022年9月8日
転移性乳がん患者に対する個別化遺伝子治療は、一部のゲノム変化がある場合に治療転帰が向上することが第II相臨床試験において明らかになった。この知見は、ゲノミクスに基づいた治療方針の決定を方向付けるために役立つかもしれない。この臨床試験について報告する論文が、Nature に掲載される。
DNA塩基配列解読法は、各症例におけるがん発症に寄与した可能性のある特異的な遺伝子変異を評価するために広く利用されており、個々の患者に合わせた治療を目指している。しかし、ゲノムスクリーニングの結果が日常の臨床診療にどのように反映されるか、特に患者が標的療法の恩恵を受けられるかどうかを判断する際にどのように反映されるかは、依然として分かっていない。
今回、Fabrice Andreたちは、第II相臨床試験において転移性乳がん患者1462人のゲノムをスクリーニングし、そのうち238人を2つのグループに無作為に割り付けた。第1のグループは、維持療法を受けた患者(初期治療に対する応答があった後、治療を継続している81人)で、第2のグループが、発現した特定の遺伝子変異を標的とした治療を受けた患者(157人)であった。Andreたちは、標的療法を受けた患者において、遺伝子変異がESMO Scale for Clinical Actionability of Molecular Targets(ESCAT)でレベルIまたはレベルIIに分類される場合(標的であるゲノム変化に適合する薬が臨床使用できる段階にある場合またはその有効性が予備的研究で確認されている場合)に、転帰の改善(無増悪生存期間で評価される)が認められたことを明らかにした。レベルIII以上の分類(これまでに標的に適合した薬の有効性が証明されていない)につながるゲノム変化を示した患者は、平均して標的療法の恩恵を受けなかった。
Andreたちは、患者特異的な遺伝子データに基づく転移性乳がんの治療方針の決定を方向付けるためにESCATの枠組みを利用することの有益性を示す証拠が、今回の第II相臨床試験によってもたらされたと結論づけている。その一方で、Andreたちは、標的療法を受けた患者において見られた恩恵の多くが、BRCA 1/2の変異を呈することの結果であった可能性があるため、結果の解釈には注意を要することも強調しており、今回の研究でサンプルサイズが小さかったため、他のタイプの変異を考慮する余地が狭まった可能性があるとも述べている。
doi:10.1038/s41586-022-05068-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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