気候変動:作物収量の減少が気温変動緩和技術の足かせになる可能性
Nature
2022年9月8日
我々が地球温暖化を抑制するための手段として作物を利用して炭素を回収、貯留する能力が、気候変動が作物収量に及ぼす悪影響によって低下するという可能性を明らかにした論文が、Nature に掲載される。この知見は、パリ協定の気温上昇目標である2℃を超えると、気候の安定性と食料安全保障を脅かされることを示唆している。
CO2回収・貯留付きバイオマス発電(BECCS)は、気候変動緩和のための重要な対策として認められている。この技術では、食用作物(トウモロコシやコメなど)由来の農業廃棄物や専用のエネルギー作物を燃焼させ、燃焼時のCO2を回収して、地層に貯留する。しかし、気候変動が作物収量に及ぼす悪影響によってBECCSの能力が低下し、食料安全保障が脅かされて、これまでに認識されていなかった地球温暖化に対する正のフィードバックループが生じている。
今回、Rong Wangたちは、生育期の気温、大気中のCO2濃度、窒素施肥強度が作物収量に及ぼす影響を評価した。その結果、地球温暖化の緩和と大規模なBECCSが、全球気温の上昇が約2.5℃を超えると予測される2060年まで遅れると、BECCSのための作物の収量が不足し、2100年までの全球気温の上昇を2℃に抑えるというパリ協定の目標を達成できなくなることが判明した。この目標不達成のリスクは、食料需要の増加によって増幅され、気候による作物収量減少を補うための農地の拡大や窒素施肥の強化につながる。
Wangたちは、BECCSの能力低下を補うための他のネガティブ・エミッション技術(負の排出技術)が近い将来利用可能にならない限り、気候変動の緩和を早期(できれば2040年まで)に達成して、不可逆的な気候変動と深刻な食料危機を回避することが緊急に必要になっていると強調している。
doi:10.1038/s41586-022-05055-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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