環境:中東における劣悪な大気の質に対する人間の寄与が過小評価されている
Communications Earth & Environment
2022年9月23日
中東における微粒子物質による大気汚染の90%以上は人間の活動が原因になっているという可能性を示した論文が、Communications Earth & Environment に掲載される。この研究知見は、劣悪な大気の質の主原因を自然起源のエーロゾル(例えば、砂漠の塵)とする共通認識に異議を唱え、中東の人々の健康を守るために大気汚染物質の排出量削減が重要なことを強調している。
中東における大気の質は、自然要因(例えば、大規模な大気循環や砂漠と空気中に浮遊する塵の存在)の影響を受けていると考えられている。しかし、中東は、世界の二酸化硫黄汚染の15%以上の発生源であり、中東の温室効果ガス排出量は、全球排出量の約7.5%を占めていることも分かっている。それに、大気汚染のかなりの部分は、排出目録による原因特定ができていないことが、これまでの研究で示唆されている。中東での死亡者の約8分の1は、地域的な大気汚染を原因としており、高コレステロールや喫煙を原因とする死亡者が占める割合に近い。大気汚染物質の排出量が十分に明らかになっていないことと観測データの欠如のために、中東の大気組成と住民の健康への影響の解明が進んでいなかった。
今回、Jos Lelieveldたちは、2017年にアラビア半島の周囲を航行した調査船で収集された観測データの解析と大気モデル化を組み合わせた。その結果、この地域の有害微粒子物質の90%以上が、化石燃料の燃焼や石油産業などの人間活動に由来すると推定され、汚染濃度は恒常的にWHOのガイドラインを上回っており、汚染への曝露による超過死亡率は、5.9%(キプロス)~15.9%(クウェート)であることが判明した。これに対して、大気の質が高い米国とドイツの場合は、それぞれ3.0%と3.7%だった。また、大気汚染による健康への悪影響は、クウェート、エジプト、バーレーン、イラク、オマーン、サウジアラビアで特に深刻なことが明らかになった。
Lelieveldたちは、中東において人間活動による大気汚染物質の排出を削減することは、大気汚染と、それが健康、生態系、気候変動に及ぼす影響を大幅に減らすことにつながると提言している。
doi:10.1038/s43247-022-00514-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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