化石:大量出土したシルル紀の魚類化石が示す有顎脊椎動物の台頭
Nature
2022年9月29日
中国南部で新たに発見された前期シルル紀(約4億3900万~4億3600万年前)の2つの化石層で出土した保存状態の良い魚類化石のコレクションが、有顎動物の初期の放散と多様化に関する新たな識見をもたらしている。この研究知見は、今週、Nature に掲載される4編の論文に示されており、これらの論文では、魚類の新種が明らかにされ、有顎脊椎動物の最古の歯についての記述がある。
有顎脊椎動物(顎口類としても知られている)は、ヒトを含む現生脊椎動物の99.8%以上を占めており、約4億5000万年前に出現したと考えられている。しかし、この時代の化石証拠は少なく、有顎脊椎動物の初期進化史を再構築することは難しい。顎関節を持つ有顎魚類については、約4億2500万年前の化石が、これまでに確認された最古のものとなっている。
Min Zhuたちの論文には、中国南部の重慶で見つかった前期シルル紀の極めて保存状態の良好な化石の堆積層が示されている。この化石層には、多様な魚類の全身化石が含まれており、記録上の空白を埋めるために役立つ。出土した化石は、板皮類(最古の既知の有顎脊椎動物である先史時代の甲冑魚類の絶滅分類群)や軟骨魚類(サメやエイなどの軟骨魚の分類群)などの化石だった。その中で最も多かった(標本数が20点以上だった)のが、体長約3 cmの板皮類種で、Xiushanosteus mirabilisと命名された。この魚類種は、主要な板皮類サブグループの特徴を併せ持っており、このことが、現生有顎脊椎動物の頭蓋骨の進化を明らかにするヒントになっている。また、Shenacanthus vermiformisと命名された軟骨魚類種は、体形が他の軟骨魚類種に類似しているが、通常は板皮類に関連付けられている装甲板を有することが分かった。これらの発見は、この時代にこれまで知られていなかった多様化が生じたことを明らかにしている。
このほかのZhuたちの3編の論文には、これらの魚類種の一部が詳細に記述されている。第2の論文では、古代の魚類で、中国とベトナム北部でしか見つかっていない装甲板を有する無顎魚類の絶滅分類群であるガレアスピス類の全身の詳細が、約4億3600万年前の標本の分析を通じて初めて明らかにされた。ガレアスピス類には、特徴的な頭部背板(head shield)があるが、頭蓋後方の解剖学的構造は、これまで不明だった。この論文では、腕や脚の前駆構造である胸びれと腹びれに分かれる前の対鰭の原始的状態も示されている。第3の論文には、約4億3900万年前の堆積層から発見された古代の棘のあるサメ様魚類種(Fanjingshania renovataと命名された軟骨魚類種)について記述されている。この古代魚類種は、一部のステム軟骨魚類に見られるものに似た肩帯を持っているが、硬骨魚類に通常見られる硬組織吸収の証拠も示している。これらの知見は、有顎脊椎動物が、下部デボン紀の化石記録に広く現れる前の前期シルル紀に放散したという学説に対するこれまでで最も強力な補強証拠になるとZhuたちは述べている。第4の論文では、約4億3900万年前のこれまで知られていなかったサメの近縁種(Qianodus duplicis)の複数の化石歯が報告されている。これらの歯は、他の既知の顎口類の歯の化石標本よりも古く、これによって、脊椎動物の顎と歯列が出現した年代が約1400万年さかのぼった。
doi:10.1038/s41586-022-05136-8
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