技術:ビットコインのマイニングが環境に及ぼす負担は牛肉生産と同程度
Scientific Reports
2022年9月30日
デジタル暗号通貨「ビットコイン」のマイニングが環境に及ぼす負担を分析する研究が行われ、この環境への負担をビットコインの市場価格に占める割合で表示すると、金の採掘による気候損害よりも牛肉生産による気候損害に匹敵することが明らかになった。この分析結果を報告するBenjamin Jonesたちの論文が、Scientific Reports に掲載される。Jonesたちは、ビットコインを「金(ゴールド)のデジタル版」ではなく、かなり大量のエネルギーを消費する製品(例えば、牛肉、天然ガス、原油)のようなものと考えるべきだという見解を示している。
2021年12月現在のビットコインの市場価値は、ドル換算で約9600億ドル(約130兆円)であり、暗号通貨の世界市場におけるシェアが約41%に達した。ビットコインはエネルギーを大量に消費することが知られているが、気候損害額(炭素排出による経済的損害と気候変動が経済に与える影響の推定値)の程度は明らかになっていない。
この論文には、2016年1月から2021年12月までのビットコインマイニングによる気候損害を経済的に算出した結果が示されている。2020年にはビットコインのマイニングに年間75.4テラワット時が消費されたことが報告されている。これはオーストリアの年間エネルギー消費量(69.9テラワット時)やポルトガルの年間エネルギー消費量(48.4テラワット時)よりも多い。
Jonesたちは、3つの持続可能性基準に従ってビットコインの気候損害を評価した。3つの持続可能性基準とは、(1)気候損害額の推定値が時間の経過とともに増加しているか、(2)ビットコインの市場価格が気候損害の経済的コストを上回るかどうか、(3)マイニングされたビットコイン1枚当たりの気候損害額と他の部門や商品の気候損害額との比較であった。ビットコインのマイニングによる二酸化炭素換算(CO2e)排出量は、2016年の1コイン当たり0.9トンから2021年の1コイン当たり113トンへと126倍に増加したことが明らかになった。また、2021年にマイニングされたビットコインは、1枚当たりの気候損害額が1万1314ドル(約158万4000円)となり、全世界の損害額の総計は、120億ドル(約1兆6800億円)を超え、市場価格の25%を占めるという計算結果になった。気候損害額がビットコインの価格に占める割合は、2020年5月に156%でピークに達した。これは、ビットコインの市場価値1ドルごとに全世界の気候損害額1.56ドル分につながったことを意味している。
そして、Jonesたちは、ビットコインによる気候損害額を他の産業や製品(発電、原油処理、食肉生産、貴金属採掘など)による気候損害額と比較した。ビットコインによる気候損害額は、2016年から2021年の間、平均して市場価値の35%を占めていた。これは、天然ガスを使って発電した電力(46%)や原油から生成されたガソリン(41%)よりは少ないが、牛肉生産(33%)や金の採掘(4%)よりは多かった。
Jonesたちは、ビットコインが、評価に用いた3つの重要な持続可能性基準のいずれも満たしておらず、ビットコインのマイニングを持続可能なものにするためには、何らかの規制を導入する可能性を含めて顕著な改革が必要だと結論付けている。
doi:10.1038/s41598-022-18686-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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