音楽:ジャズのスイング感を得るために音符を演奏するタイミングを遅らせる
Communications Physics
2022年10月6日
ジャズ音楽の1つの小節内に2つの連続した8分音符がある場合に、最初の8分音符を演奏するタイミングを30ミリ秒遅らせるとスイング感が増すという結果を報告する論文が、Communications Physics に掲載される。今回の研究における実験で、こうしたタイミングの遅れのある演奏についてスイング感が得られるとジャズ演奏家が評価する確率が、遅れのない演奏の7倍以上になった。
ジャズ音楽では、リズム感を表現するために用いられる「スイング」という用語が、ジャズの重要な要素として認識されているが、この現象の背後にある音楽的タイミングについては解明されていない。ジャズでは、わずかなずれ(マイクロタイミング)がスイング効果を生み出す重要な要素だと考えられている。
今回、Theo Geiselたちは、3つの楽曲(The Smudge、Texas Blues、Jordu)のソロパートを使って演奏の一部に手を加え、「ダウンビート」を演奏するタイミングを系統的に遅らせた。ダウンビートとは、指揮者が指揮棒を振り下ろして合図する2拍子の1拍目と理論的に定義される。(これに対して、「オフビート」とは、指揮者が次に指揮棒を振り下ろすまでの2拍目と定義される。)第1の実験条件は、ソロ奏者がダウンビートを演奏するタイミングを30ミリ秒遅らせるというもので、第2の実験条件は、ソロ奏者がダウンビートとオフビートを演奏するタイミングを30ミリ秒遅らせるというものだった。この実験では、このような操作を加えた音楽をセミプロのジャズ演奏家19名とプロのジャズ演奏家18名に聴かせて、スイング感を評価させた。
第1の実験条件による音楽について、ジャズ演奏家によってスイング感があると評価される確率は、演奏タイミングに遅れのない音楽と比べて7.48倍高かった。このスイング感の評価が高くなる確率の上昇には有意性が認められた。一方、第2の実験条件による音楽は、遅れのない音楽との間でスイング感の評価に有意差が認められなかった。
Geiselたちは、ダウンビートを演奏するタイミングを系統的に遅らせたことで、スイング感の評価が有意に高まったことを明らかにし、ダウンビートを演奏するタイミングを遅らせることが、ジャズのスイングの重要な要素になっているという見解を示している。そして、Geiselたちは、自らの過去の研究で、音符の演奏タイミングをランダムにずらしてもスイング感の評価が高くならなかったことを指摘している。
プロのジャズ演奏家によるスイング感の評価は、全体的にセミプロ演奏家よりも有意に低かった。しかし、この点については、プロの演奏家の方が基準も期待値も高いことを反映したものと考えられるとGeiselたちは述べている。
さらにGeiselたちは、ジャズ演奏家のソロ演奏(450例以上)を分析し、ほぼ全ての演奏において、ダウンビートを演奏するタイミングを遅らせていることを明らかにした。このことは、ジャズ演奏家が実際にこのような演奏タイミングの微妙な操作を行って、スイング感を高めていることを示唆している。
Geiselたちは、ダウンビートを演奏するタイミングを系統的に遅らせることがスイングに与える影響を特定することが、ジャズ音楽におけるスイングが何であるかをより正確に定義するために役立つと結論付け、この点の理解を深めることで、ジャズ音楽におけるスイング効果の生成が課題となっているコンピューター生成音楽の発展につながるかもしれないと考えている。
doi:10.1038/s42005-022-00995-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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