考古学:現代の農薬が古代ローマ時代の鋺の腐食を加速している
Scientific Reports
2022年10月6日
後期鉄器時代(西暦43~410年)のものとされる腐食したローマ時代の鋺(金属製の椀)にクロロベンゼンの痕跡が見つかった。クロロベンゼンは、かつて農薬に使用されていた化学物質で、土壌や水源に蓄積することが知られている。今回の研究では、クロロベンゼンで汚染された土壌が、地中に残っている考古学的材料の保存を脅かしている可能性があることが明らかになった。こうした知見を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。
クロロベンゼンは、高濃度で毒性を示すことがある合成化合物で、英国では環境汚染への懸念を受けて、ほとんど使用禁止になっている。しかし、クロロベンゼンは、それまでの農業活動や工業活動を介して環境中に蓄積していると考えられている。2016年に英国ケント州の農場から銅合金でできたローマ時代の鋺が発見された。この農場は、遅くとも1936年から農業に使われていたことが知られている。
今回、Luciana da Costa Carvalhoたちは、この鋺に見られる緑色と褐色の腐食を分析し、それぞれの成分を特定した。その結果、人間の活動によって引き起こされた土壌の経時変化を示す成分が発見された。つまり、緑色の腐食にはクロロベンゼンが存在することが判明し、褐色の腐食にはジエチルトルアミド(DEETとも呼ばれる)が発見された。ジエチルトルアミドは、防虫剤に使用されている現代の化合物だ。
Carvalhoたちは、クロロベンゼンがローマ時代の鋺の腐食の拡大と関連していたとする見解を示した上で、英国ではクロロベンゼンが使用されなくなったが、汚染された土壌によって今なお地中に埋蔵されている考古学的材料の保存が脅かされている可能性があり、さらなる研究を行って、関係する過程の解明を進める必要があると結論付けている。
doi:10.1038/s41598-022-17902-9
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