Research Press Release

生態学:ガス開発がシカのグリーンウエーブ・サーフィンを妨げる

Nature Ecology & Evolution

2022年10月6日

米国のミュールジカの移動がガス田開発の拡大によって大きく妨げられていることを示した論文が、Nature Ecology & Evolution に掲載される。工業インフラはシカの季節的移動経路沿いに障壁を作っており、食物が最も豊富な時期に対してシカが後れをとったり、それを見逃したりする原因となるため、生存と生殖に影響を与えると考えられる。

動物の中には、季節的食物源を利用するために長距離移動に乗り出すものがいる。米国西部のミュールジカ(Odocoileus hemionus)などの種は、極めて栄養豊富な植物の新芽の出現をぴったり追い、明確に決まった移動回廊に沿って移動しており、その行動は「グリーンウエーブ・サーフィン(green wave surfing)」として知られる。しかし、長い歴史のあるそうした移動経路が人間の改変した景観の中でどれだけ破壊されているのかは不明である。

Ellen Aikensたちは、GPSの首輪を装着した米国ワイオミング州中南部のミュールジカ120頭から14年間(2005~2018年)にわたって春季に収集した移動のデータを解析した。この期間には、シカの移動回廊と交わる炭層天然ガス開発が拡大し、その経路沿いでは採掘井戸および道路が増加してその密度が上がった。シカは、産業的開発の初期段階には、植物の成長のグリーンウエーブとの同期性を維持できていたことが明らかになった。しかし、開発が拡大すると、その2つの現象は次第に脱同期し、シカがグリーンウエーブに平均8~22日遅れるようになった。この脱同期は、シカがガス田まで1キロメートル以内の所で移動を停止することが主因であり、それによってグリーンウエーブはシカのところを通り過ぎ、サーフィンは14年間で38%減退した。

研究チームは、シカがこの妨害を打ち消すために経時的に戦略を調整できるという証拠を何ら見いだしていない。シカがエネルギー必要量を充足するまで食べられなくなるため、このことはシカの生存や生殖に悪影響を及ぼしかねない。

doi:10.1038/s41559-022-01887-9

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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