人類学:ネアンデルタール人家族の遺伝的スナップショット
Nature
2022年10月20日
ネアンデルタール人の小さなコミュニティーにおける人間関係と社会組織を初めて記述した論文が、今週、Nature に掲載される。この知見は、アジアの2つの洞窟で発掘されたネアンデルタール人(13人)の骨の古代DNAの解析に基づいたものであり、ネアンデルタール人の社会組織に関する新たな識見をもたらしている。今回の研究は、これまでに報告されたネアンデルタール人の遺伝学的研究の中で最大規模のものとなった。
現生人類と近縁関係にあるネアンデルタール人は、約43万年前から4万年前にかけて西ユーラシアに居住していた。これまでに合計18人のネアンデルタール人の骨から得た遺伝的データ(核DNAデータ)が一定数の研究で報告されており、ネアンデルタール人の集団が広範に検討されてきた。しかし、ネアンデルタール人の社会組織については、ほとんど分かっていない。
今回、Laurits Skovたちは、ロシアのシベリア南部のアルタイ山脈にあるチャギルスカヤ洞窟で発掘されたネアンデルタール人の骨(11人)とオクラドニコフ洞窟で発掘されたネアンデルタール人の骨(2人)から得た遺伝的データを解析した。その結果、チャギルスカヤ洞窟のネアンデルタール人の一部が近親者で、父親とその10代の娘と2人の第2度近親者が含まれていることが判明した。この結果は、これらのネアンデルタール人の少なくとも一部がほぼ同時代に生きていたことを示している。また、これらのネアンデルタール人において、父系遺伝するY染色体の遺伝的多様性が、母親から子へ遺伝するミトコンドリアDNAの遺伝的多様性よりもはるかに低く、女性が移住する傾向が男性より強かったことが示唆されている。この研究結果について、Skovたちは、コミュニティーの規模が小さい(20人程度)ために、女性の60%以上が配偶者の家族の一員となるために別のコミュニティーに移住し、男性が移住しなかったことによって最もよく説明できるという見解を示している。
Skovたちは、今回の研究におけるサンプルは、サイズが小さく、ネアンデルタール人の集団全体の社会生活を代表していない可能性があると注意を促している。従って、今後の研究では、ネアンデルタール人の社会組織をさらに明らかにするために、他のコミュニティーのネアンデルタール人をもっと多く研究対象に含めることを目指すべきだと考えられる。
doi:10.1038/s41586-022-05283-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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