微生物学:ニコチンを分解する細菌がマウスの喫煙関連肝疾患の進行を抑える
Nature
2022年10月20日
ニコチンを分解できる腸内細菌が特定されたことを報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究でマウスモデルを用いた実験が行われ、この腸内細菌が、喫煙に関連した脂肪性肝疾患の進行を防ぐことも明らかになった。これらの知見は、一部の喫煙関連疾患の進行を抑制する方法を探究する道筋が開ける可能性を示唆している。
世界保健機関によって説明されているように、喫煙が、世界における予防可能な死亡の主因になっている。喫煙をやめることは、平均余命を延ばす最も効果的な方法だが、ニコチンの強い中毒性と禁断症状のために実践することが容易でない。喫煙は、多くの疾患(例えば、非アルコール性脂肪性肝疾患)に関連しており、肝硬変や肝細胞がんを引き起こすこともある。こうした疾患と喫煙の関連が生じる基盤となる機構は、今も解明されていない。
この研究で、Frank Gonzalezたちは、喫煙者(30人)と非喫煙者(30人)から集めた糞便検体と血清検体を調べて、ニコチン曝露後に高濃度のニコチンが腸内に蓄積することを見出した。同様の結果は、ニコチン曝露のマウスモデルでも観察され、マウスにおいて、ニコチンの蓄積が非アルコール性脂肪性肝疾患の発症リスクが高いことに関連することが分かった。また、(微生物が全く存在しない)無菌マウスとあらかじめ定められた腸内微生物相が形成されたマウスを比較したところ、無菌マウスのニコチン濃度の方が高く、特定の腸内細菌がニコチン濃度を調節できるかもしれないことが明らかになった。Gonzalezたちは、マウスの腸内微生物相のスクリーニングを行って、ニコチン分解酵素遺伝子を持つことが知られている菌株を探した。その結果、Bacteroides xylanisolvensという細菌が、ニコチン曝露を受けたマウスの腸内ニコチン濃度を低下させ、非アルコール性脂肪性肝疾患の重症度を軽減することが判明した。
B. xylanisolvensは、ヒトの腸内にも自然に存在するが、この腸内微生物相がニコチンを分解し、ヒトの喫煙関連疾患を予防する能力については、さらなる研究によって明らかにする必要があるとGonzalezたちは述べている。
doi:10.1038/s41586-022-05299-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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