遺伝学:黒死病に対する免疫を調べる
Nature
2022年10月20日
黒死病が、病原体に対する免疫応答に関与する遺伝子の進化に影響を与えた可能性があることを示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。これは、古代ゲノムのデータを解析する研究によって得られた知見で、パンデミック(世界的大流行)が疾患感受性を方向付けた可能性があることを示す証拠となっており、その傾向が今後も続く可能性を示唆している。
ペスト菌を原因とする黒死病は、西暦1346年から1350年にかけてヨーロッパ、中東、北アフリカに広がり、死者数が、当時の人口の30~50%に達した。黒死病の死亡率が高かったことは、その当時までに、これらの地域の集団においてペスト菌に対する免疫学的適応がほとんどなかったことを示唆している。その後の400年間におけるペストの大流行では、死亡率が低下した。これは、文化的慣習の変化や病原体の進化の結果であるかもしれないが、ヒトがペスト菌に遺伝的に適応したことを示している可能性もある。
今回、Luis Barreiroたちは、免疫関連遺伝子の遺伝的変異の進化を探究するため、英国ロンドンとデンマーク全土での黒死病の流行前、流行中、流行直後に死亡した者から抽出したDNA試料(計516点、うちロンドン318点、デンマーク198点)の解析を行い、そのうちの206点が主解析に使用された。これらのDNA試料の年代は、過去の記録と放射性炭素年代測定法を用いて決定された。DNA試料を抽出した者の一部は、ロンドンのペスト墓地に埋葬されており、その全員が1348年から1349年の間に死亡している。この解析の結果、免疫関連遺伝子の複数の遺伝的バリアントが、黒死病の流行中と流行後に正の選択を受けたことを示す証拠が見つかった。ロンドンでの黒死病の流行前と流行後のDNA試料の比較で、高度に分化した遺伝的バリアント(245個)が特定され、そのうちの4個がデンマークのコホートで再現された。正の選択を受けたバリアントの最有力候補(4個)のうちの1つは、実験室実験において血液細胞(マクロファージ)によるペスト菌の制御に関連していることが判明し、このバリアントが、ペスト菌に対する耐性に寄与した可能性が示唆された。
Barreiroたちは、ペスト菌からの防御に関連するバリアントが、自己免疫疾患に対する高い感受性に関連するアレルと重複している点を指摘し、過去のパンデミックが現在の疾患リスクを方向付ける役割を果たした可能性を強く示している。
doi:10.1038/s41586-022-05349-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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