進化学:ブリテン最古のヒトDNAから明らかになった異なる生活と血統
Nature Ecology & Evolution
2022年10月25日
ブリテン史上、既知最古のヒトDNAについて報告する論文が、Nature Ecology & Evolution に掲載される。約1万4000年前に生きていた2人の後期旧石器時代人の解析に基づく今回の知見によって、異なる血統的起源と、完新世以前のグレートブリテン島への複数集団の移住が明らかになった。
ブリテンには最終氷期極大期以前から人類が生活していたが、約1万9000年前まで島には氷床が広がっており、その氷が融解し始めるまでは居住に適した場所が限られていたため、居住者は少なかった。
Sophy Charltonたちは今回、英国サマセット州の「ゴフの洞窟(Gough's Cave)」から出土した1人、およびウェールズの「ケンドリックの洞窟(Kendrick's Cave)」から出土した1人のゲノムの塩基配列を解読し、得られた遺伝子データを各遺跡の文化的・生態学的実際に関する情報と関連付けた。ゴフの洞窟の人は約1万4900年前に生きていた女性であった一方、ケンドリックの洞窟の人はその1000年ほど後に生きていた男性であった。両遺跡は居住の年代が比較的近いが、ゴフの洞窟の人はベルギーで出土した1万5000年前のゴイエ(Goyet)Q2の個体と関連する遺伝的系統のデータを共有する一方、ケンドリックの洞窟の人はイタリアで出土した1万4000年前のヴィッラブルーナ(Villabruna)の人と同じ系統であった。このことから、ブリテンには遺伝的に異なる2つの集団が互いから約1000年以内に存在したことが指摘された。それは、後期更新世の欧州の別の場所でみられるいわゆる「複系統(dual ancestry)」のパターンと重なる。考古学的および同位体分析から、その2人の間には文化、食物、および葬法に関する相違も見いだされた。
関連するNews & ViewsではChantel Connellerが、その知見を前向きに受け入れながらも、遺伝的特徴と社会的集団と考古学的文化の過度に単純化された相関を想定することを戒めている。そして、「旧石器考古学は比較的編年が不正確でデータセットが小さいため、数百年ないしは数千年も離れている可能性のある集団的出来事や物質文化的変化に関する同時性の主張に対し、とりわけ脆弱である。起源の物語は強力であり、政治的に中立であることはほとんどない」と述べている。
doi:10.1038/s41559-022-01883-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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