生理学:電子タバコはマウスの正常な心機能に悪影響を及ぼす可能性がある
Nature Communications
2022年10月26日
電子タバコのエアロゾルが正常な心機能を一時的に阻害する可能性のあることが、マウスの実験で明らかになった。この結果を報告する論文が、Nature Communications に掲載される
電子タバコは、タバコを燃焼させることなくニコチンを体内に送り込む。そのため、電子タバコのエアロゾルに含まれる一酸化炭素、タール、発がん性化合物の量は、タバコの煙よりはるかに少なく、その結果として、電子タバコの害の方が少ないと主張する者もいる。しかし、電子タバコのエアロゾルが心機能に及ぼす影響やその成分の一部が果たす役割は、あまり解明されていない。
今回の研究で、Alex Carllたちは、マウスを用いて、電子タバコのエアロゾルが心臓の電気的特性に及ぼす影響をリアルタイムで調べた。Carllたちは、電子タバコ(5種類)のエアロゾル、対照タバコ(2種類)の主流煙とアクロレイン(電子タバコと紙巻きタバコによって発生するガス状物質)に6~8匹のマウスを曝露させる一連の実験を行った。これらのマウスについては、吸入曝露中、曝露後早期(各曝露から4~9分後)、曝露後後期(最終曝露から9~28分後)にベースラインからの変化をモニタリングした。マウスが電子タバコのエアロゾルを吸入したところ、不整脈が誘発され、心室再分極の異常が発生し、心拍数が変化した。これらすべては、曝露中の自律神経系の調節を介して生じていた。また、曝露による影響のいくつか(例えば、心拍数の増加)が曝露後後期まで続いたが、その他の影響は、曝露後早期のレベルで推移していた。Carllたちは、最終曝露から28分経過した後は、これらの影響のモニタリングが行われなかったことを指摘している。
Carllたちは、これらの反応の性質と大きさは、E-リキッド(電子タバコの補充液)に含まれる化学物質(ニコチン、溶剤、香料など)に依存している可能性があるという見解を示している。例えば、メントール風味のE-リキッドは、心房伝導(電気インパルスが心房を通って伝播すること)に影響を与えることが明らかになった。また、電子タバコの溶剤は、雌よりも雄のマウスにおいて明白な心臓リズムの異常を引き起こすことが判明し、生物学上の性が果たす役割が暗示された。しかし、以上の分析に用いられたのは4匹の雌マウスだけで、Carllたちは、今回の研究で得られた知見を解釈する際に注意を払う必要があることを指摘している。
Carllたちは、以上のように齧歯類で観察された反応がヒトで見られる反応とは異なっている可能性がある点を強調している。また、電子タバコのエアロゾルに反復的に曝露すると、ヒトの場合には耐性が生じる可能性があり、そのため、特に喫煙歴のある成人では心臓が示す反応が小さくなる可能性があるとCarllたちは述べている。
doi:10.1038/s41467-022-33203-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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