地球科学:火と氷の相互作用は海洋中の酸素濃度に影響する可能性がある (N&V)
Nature
2022年11月3日
最終退氷期(約1万7000~1万年前)に北太平洋の酸素濃度が低下した原因が、氷床の後退によって誘発された火山噴火だったという可能性を報告した論文がNatureに掲載される。この知見は、海洋生態系に影響を与える可能性のある複数の地球システムの複雑な結合を浮き彫りにしている。
海洋亜表層の脱酸素は、地球温暖化傾向に伴って進行すると予測されており、酸素に依存して生存している海洋生態系、特に酸素濃度の低い北太平洋と東太平洋の海域に大きな影響を及ぼす。しかし、過去の長期的な脱酸素を引き起こし、持続させる機構を特定することは、脱酸素の観測値が年々変動するために難題となっていた。
今回、Jianghui Duたちは、北東太平洋のアラスカ湾の2地点で採取された海底堆積物を調べて、海洋酸素化の高分解能記録を作成した。その結果、最終退氷期にコルディレラ氷床が後退した直後の北太平洋における最初の脱酸素の際に、海底堆積物中の火山灰が増加していたことが分かった。この知見は、氷床の融解が火山噴火の引き金になったことを示唆しており、氷の重みで押し下げられていた地殻が、氷床の融解によって上昇して、地殻内の応力が変化し、火山噴火が誘発されたとされる。火山灰中の鉄は、海洋地域を肥沃にし、海洋生物の生産力を高め、持続的な脱酸素をもたらした。さらにDuたちは、過去5万年間に対象を広げて、最終退氷期より前に起こった氷床後退に関連する複数の脱酸素事象も特定した。
同時掲載のNews & Viewsでは、Weiqi YaoとUlrich Wortmannが、現在、海洋の一部で酸素が減少しており、このことが、世界で最も規模が大きく、最も探査されていない海洋生態系に影響を与え、食料安全保障に未知の影響を及ぼす可能性があることを指摘し、今回のDuたちの研究は「生物地球化学的フィードバックが世界中の海洋の健全度に影響する過程をさらに解明することが急務であることを示している」と付言している。
doi:10.1038/s41586-022-05267-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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