神経科学:妊娠に関連した脳の変化を調べる
Nature Communications
2022年11月23日
妊娠によって女性の脳の構造と機能に変化が生じる可能性があり、これが母性行動に関連していることを示唆した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、脳の構造と機能の変化が妊娠期と出産後の母性行動に寄与している可能性があることを示唆している。母性行動の例としては、母体の胎児へのボンディング(情緒的な絆)、(ヒト以外の動物の)営巣行動、乳児の合図に対する生理的応答性、母親の乳児へのボンディングなどがある。
妊娠は、ホルモン状態の大きな変化を伴うが、それが、ヒトの神経の構造と機能に及ぼす影響については、ほとんど解明されていない。
今回、Elseline Hoekzemaたちは、妊娠が脳の変化を引き起こす過程を調べるため、40人の女性を対象として、妊娠前、妊娠期、出産後に検査を実施し、そのうちの28人については、出産の1年後にも検査を行った。デフォルトモードネットワーク(DMN)は、相互に接続した脳領域の一群のことで、安静時に最も活発に活動する。この検査では、妊娠期にDMNの機能的接続性の増加が認められ、出産の1年後にはベースライン水準に戻った。さらに、Hoekzemaたちは、妊娠期のDMNの機能的活動と出産の1年後における母親の乳児へのボンディングの測定値との間に関連性を見いだした。また、妊娠期にDMNの灰白質の容積に変化が見られることが以前の研究で明らかになっていたが、今回の研究でもこの変化が確認された。こうした変化は、妊娠ホルモンの値と相関していた。一方、妊娠期には白質の構造に変化が見られなかった。
今回の知見は、妊娠がDMNにおける脳の構造と機能の特定の変化に関連していることを示唆している。また、妊娠中と出産後の母性行動が、DMNと関係している可能性も明らかになった。ただし、これらの知見は、相関関係を示しているにすぎず、脳の変化とボンディングの間の因果関係を断定したものではないことに注意する必要がある。
doi:10.1038/s41467-022-33884-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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