微生物学:人間の腸内細菌とうつ病との関連を評価する
Nature Communications
2022年12月7日
うつ症状に関連する腸内細菌相について報告する2編の論文がNature Communicationsに掲載される。今回の研究で得られた知見は、うつ病に関連する重要な化学伝達物質の合成に関与する特定の腸内細菌と、それに関連した民族間の違いを明らかにしている。
うつ病は、主な死亡原因の1つであり、経済格差の主要な原因であるにもかかわらず、病気自体の原因が明らかでなく、十分に解明されず、治療選択肢も限られている。腸内マイクロバイオームは、うつ病性障害に関与していると考えられているが、その根底にある生物学的機構に関する研究は十分でない。また、腸内マイクロバイオームとうつ症状のレベルは、民族によって大きく異なることが知られている。従って、将来的なマイクロバイオームを標的としたうつ病に対する介入に関しては、さまざまな民族についてマイクロバイオームとうつ病の関連を解明することが必要とされる。
今回、Jos Bosch、Anja Lok、Susanne de Rooijたちは、HELIUS研究のマイクロバイオームコホートに含まれる3211人を対象とする研究を行った。これらの対象者は、アムステルダムの市街地に居住する6つの民族(オランダ人、南アジア系スリナム人、アフリカ系スリナム人、ガーナ人、トルコ人、モロッコ人)の人々だった。この論文の著者は、微生物相データを人口統計学データ、行動学データ、うつ状態のデータと紐付けて、うつ症状の予測指標となる微生物相を特定した。研究対象となった6つの民族では、この微生物相にほとんど違いがなかった。
もう1つのNajaf Amin、Robert Kraaij、Djawad Radjabzadehたちの論文では、オランダの別のコホート(Rotterdam Cohort)の参加者1054人の腸内微生物相の特徴の比較が行われ、うつ症状に関連する13の微生物分類群(エガセラ、サブドリグラヌルム、コプロコッカスなど)が明らかになったことが報告されている。この研究知見は、HELIUS研究のコホートで再現された。論文著者は、これらの細菌がうつ病に関連する既知の化学伝達物質(グルタミン酸、酪酸、セロトニン、γ-アミノ酪酸〔GABA〕など)の合成に関与していることを発見した。いずれの研究でも、腸内マイクロバイオームの代わりに糞便微生物相が用いられた。
以上の知見の臨床的影響については、実験的に確認する必要があるが、これら2つの研究を合わせると、腸内マイクロバイオームの構成とうつ病との関連がさらに補強され、腸内マイクロバイオームが、将来のうつ病の治療法の有用な標的となる可能性が示唆される。
doi:10.1038/s41467-022-34504-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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