環境:ロンドン地下鉄内の空気汚染の調査で多量の超微粒子が検出された
Scientific Reports
2022年12月16日
ロンドン地下鉄における空気汚染に関連して、直径500ナノメートル未満の磁性酸化鉄の超微粒子が空気中に蔓延していることが明らかになった。この研究について報告するHassan Sheikhたちの論文が、Scientific Reportsに掲載される。Sheikhたちは、ロンドン地下鉄に必要なのは、微粒子の磁気特性を測定する空気汚染監視の改善と空気汚染レベルをさらに下げるための取り組みだという考えを示している。これまでの研究では、超微粒子への曝露と一定範囲の疾患(喘息や心血管疾患など)が関連していることが判明している。
ロンドン地下鉄(London Underground)は、270の駅と11の路線で構成される大ロンドンの鉄道網で、全体の45%が地下区間だ。今回、Sheikhたちは、ロンドン地下鉄のダスト試料(39点)に含まれる粒子の構造、サイズ、形状、化学組成、磁気特性を分析した。ダスト試料は2019年と2021年にピカデリー線、ノーザン線、セントラル線、ベーカールー線、ビクトリア線、ディストリクト線、ジュビリー線の駅のホーム、切符売り場、電車の運転室から採取された。試料採取は、キングス・クロス・セント・パンクラス、パディントン、オックスフォード・サーカスなどの主要駅でも実施された。
これまでの研究では、ロンドン地下鉄の空気汚染粒子の50%が磁鉄鉱粒子であることが報告されている。今回、Sheikhたちは、試料中の鉄含有粒子の主要成分がマグヘマイト(鉄酸化物の一種)で、その直径が5~500ナノメートルで、平均直径が10ナノメートルであったと報告している。また、一部の粒子は、それよりも大きな直径100~2000ナノメートルのクラスターを形成していた。Sheikhたちは、今回の研究で空気汚染粒子の特性を明らかにするために使用されたものと同様の磁気モニタリングの手法が、従来の空気汚染モニタリングを補完できるかもしれないという考えを示している。従来の空気汚染モニタリングでは、空気中を浮遊する超微粒子の数量測定に関して、超微粒子が低重量であるために過小評価が起こる可能性があると考えられてきた。
また、これまでの研究では、鉄含有粒子が電車の車輪と制動装置と線路の接触によって生成し、乗客重量が増加し、走行速度が上昇すると、より細かい粒子が生成することが示唆されていた。Sheikhたちは、ロンドン地下鉄のダスト試料にマグヘマイトの超微粒子が多く含まれているのは、車輪、制動装置、線路に由来する鉄含有化合物が、地下鉄内の換気が悪いために長時間空気にさらされ、駅のホームに到着する電車によって再び空中に浮遊することが原因なのかもしれないという見解を示した上で、このように再浮遊するダストの量を減らすには、線路やトンネルの壁を洗浄したり、換気装置に磁気フィルターを装着したり、駅のホームと電車の間に網戸を設置したりすることが有効かもしれないという考えを示している。
doi:10.1038/s41598-022-24679-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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