環境:全世界における未利用の包蔵水力の評価
Nature Water
2023年1月17日
採算性のある発電が可能な水力のうちの未利用分に関する世界規模の評価が行われ、その85%をアフリカとアジアが占めていることを報告する論文が、Nature Waterに掲載される。この知見は、各国が環境や社会への影響に配慮した水力開発戦略を策定する際に役立つ可能性がある。
水力は、費用対効果が比較的高いエネルギー源であり、一部の国では脱炭素エネルギーシステムへの移行において重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、水力の開発は、環境と社会に影響を及ぼすため、論争を呼び起こしている。水力発電所は、河川生態系を破壊し、洪水のリスクを高め、発電所の建設中に土地を劣化させ、周辺住民の立ち退きを伴うことがあるのだ。
今回の研究では、全世界の河川(289万カ所)の利用可能な水力エネルギー量(包蔵水力)のうちの未利用分の分析が行われ、Zhenzhong Zengたちは、河川流量データ、貯水池データ、人口統計学的変数と環境変数、コスト面の考慮事項を総合して、新規水力発電所の建設候補地を選定した。今回の分析では、慎重な対応を要する候補地(例えば遺産地域、生物多様性ホットスポット、地震多発地帯、人口密集地域など)は除外され、水力発電所を稼働させつつ、下流の河川生態系を保全する方法が検討された。Zengたちは、収益を見込める包蔵水力が全世界で年間5.27ペタワット時(約5兆2700億キロワット時)に達し、アジアとアフリカで85%を占めることを指摘した上で、そのような包蔵水力の大部分がアジアに存在し、全体の3分の2がヒマラヤ山脈に存在しているという見解を示している。収益を見込める包蔵水力が2番目に多いのがアフリカで、ほとんどのアフリカ諸国(コンゴ民主共和国、エチオピア、モーリタニア、ザンビア、ナミビアを含む)では、収益を見込める包蔵水力の開発が行われれば、各国の現在の電力需要に対応できるという考えをZengたちは示している。
Zengたちは、今回の分析は、世界各地の水力を持続可能な方法で開発する道筋を示しており、これによって水力が、開発による環境や社会への悪影響を低減させつつ、将来のエネルギー資源においてさらに重要な役割を果たすようになると考えている。
doi:10.1038/s44221-022-00004-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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