環境:富士山の湧水は地中深くから湧き出ている
Nature Water
2023年1月20日
富士山の地中には、地下水と淡水泉の巨大なネットワークが張り巡らされており、数千年間にわたって飲用水を提供してきたが、これには深部帯水層から流れ出した水が含まれていることが今回の研究で明らかになった。この知見は、新しい水文トレーサー技術によって得られたものであり、富士山の湧水の水質低下に関する我々の理解に役立つ可能性がある。この研究について報告する論文が、Nature Waterに掲載される。
富士山は、数百万人の水源になっており、地元では「水の山」と呼ばれている。富士山の湧水は、地表近くの浅い地下水帯水層だけから涵養されていると考えられていた。しかし、このモデルでは、富士山の複雑な水文地質と、地下水汚染に関連すると考えられている最近の水質低下を説明できなかった。
従来の地下水位モニタリングの方法や古典的な水文トレーサー(地下水の流れや混合を観察するために地下水に添加される物質または地下水中に自然に存在する物質)を用いる方法では、富士山の地中の異なる深度からの地下水の鉛直混合を検出できなかった。今回、Oliver Schillingたちは、鉛直混合の可能性を調べるため、ヘリウム、バナジウム、環境DNA(eDNA)という従来とは異なる3種類の天然トレーサーを併用して、深層地下水の寄与の証拠を提示した。Schillingたちは、湧水のヘリウム濃度の測定結果から、日本で最もテクトニクス活動が活発な構造である富士川河口断層帯が、鉛直方向の地下水流の経路になっている可能性があるという考えを示し、湧水のバナジウム濃度が高いという測定結果については、長い流動時間を要する深層地下水の湧昇があるからだという説明が可能だと述べている。また、富士山の湧水に微生物由来のDNAが発見されたが、Schillingたちは、この特定のDNAを持つ微生物の発生が可能な環境条件が、これまでに富士山の非常に深い所でしか見つかっていないことを理由として、深層地下水の寄与が確認されたという見解を示している。
以上の知見は、富士山の湧水に深層地下水が寄与していることを明らかにしている。Schillingたちは、こうした地下水の経路と流れを解明すれば、地下水と湧水の汚染の予防と管理にとって貴重な情報をもたらすことができると結論付けている。
doi:10.1038/s44221-022-00001-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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