自然ハザード:氷河湖決壊洪水の脅威を全球的に明らかにする
Nature Communications
2023年2月8日
世界で約1500万人が氷河湖決壊洪水の脅威にさらされているかもしれないこと、そして、この洪水の危険に最もさらされているのがアジア高山域(インド、パキスタン、中国)とアンデス山脈(ペルーとボリビア)の住民であることを示唆した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この論文では、全世界でこの危険にさらされている人口の半数以上が、インド、パキスタン、ペルー、中国の4カ国に集中していることが報告されている。
気候温暖化によって氷河が溶けると、溶けた水が集まって氷河の近くに湖ができる。こうした湖は、氷河湖決壊洪水(GLOF)につながる重大な自然ハザードとなっている。氷河湖が含まれた天然ダムが決壊すると、GLOFが、ほとんど事前の警告なしに起こることが多い。GLOFは、財産やインフラに損害を与える可能性があり、これまでにも多くの人命が失われている。
今回、Tom Robinson、Caroline Taylorたちは、氷河湖の状態、曝露(GLOFにさらされること)、GLOFに対する脆弱性を全球スケールでまとめたうえで、GLOFによる被害想定を定量化し、ランク付けした。その結果、GLOFの危険に最もさらされているのがインド、パキスタン、中国、ペルー、ボリビアの国民であることが判明した。著者たちは、アンデス山脈が、これまでに研究の進んでいないGLOFの危険のホットスポットである点を強調し、この地域をより詳細な研究の対象とすべきだと提案している。また、著者たちは、最も危険な地域は、氷河湖の面積が最も大きい地域、氷河湖の数が最も多い地域や氷河湖が最も急速に成長している地域ではないことを指摘し、その地域内の住民の数とそれらの人々がGLOFに対処する能力がGLOFの危険にとって非常に重要であることを示している。
今回の研究でGLOFの危険が最も大きい地域を特定されたことで、より的を絞ったGLOFリスク管理が可能になるかもしれない。GLOFの危険が将来どのように変化するかは、依然として議論の余地がある。気候変動によって氷河が後退し続けると、既存の氷河湖が拡大し、多くの新しい氷河湖が形成され、GLOFの危険の空間パターンが変化する。今後、さらなる研究を行って、氷河湖の状態、曝露、脆弱性の時間変化を評価し、GLOFのリスクにとって、それぞれの要素が果たす役割を突き止める必要がある。
doi:10.1038/s41467-023-36033-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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