古生態学:赤道域に生息する海洋生物の種数が多い理由を説明する
Nature
2023年2月16日
海洋プランクトンの生物多様性のパターンには緯度による偏りがあることは、現在でも見られることだが、このパターンの発生を進めたのが古代の気候変動だった可能性のあることを示唆した論文(2編)が、今週のNatureに掲載される。今回の研究は、過去数百万年の間に海洋生物多様性がどのように生じ、維持されているのかを説明するうえで役立ち、現在の海洋生態系が将来の気候変動にどのように応答する可能性が高いかを予測することに寄与する可能性がある。
地球上に生息する生物の種数は、極域から熱帯域に向けて増えていくが、この生物多様性の緯度勾配を駆動する機構については議論がある。地球上の生物種の分布を決定する要因を解明することは、地球規模の変化が生物多様性に及ぼす影響可能性と数十億人の人々の健康、生活と幸福に絶対必要な生態系サービスにどのように影響するかを予測するうえで役立つ可能性がある。
Natureに発表される2つの研究では、浮遊性有孔虫の変化が評価された。浮遊性有孔虫は、殻を持つ単細胞生物群で、水柱内に浮遊し、化石として保存されることもある。Adam Woodhouse、Anshuman Swainたちは、最近構築された世界中の浮遊性有孔虫の化石のデータセットを調べて、浮遊性有孔虫の生息域の緯度範囲が、極域の氷床の形成に対応して、過去800万年間で赤道に向かって顕著に移動したことを明らかにした。しかし、この緯度範囲は、人間活動に関連した気候変動に応じて再び極方向へ移動している可能性がある。
もう1つのErin Saupeたちの論文では、4000万年前までさかのぼるプランクトンの化石記録と古気候モデルを合わせた研究が報告されている。この研究における分析で、地球の気候が寒冷化し始めた約1500万年前に緯度勾配が現れ始めた可能性のあることが明らかになった。また、Saupeたちは、水柱の構造(水柱の表層から底層までの各層の水の特性の差異)が、緯度勾配の駆動要因の1つであり、水深によって水温が大きく変化する低緯度域で種分化のスピードが上がる可能性が高いという考えを示している。
以上の研究結果を合わせることで、長い時間スケールでの海洋生物多様性の緯度勾配の進化に関する理解が進む。
doi:10.1038/s41586-023-05694-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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