生態学:ザトウクジラの個体数が回復してからは歌より体で競う方が配偶相手の獲得に有効らしい
Communications Biology
2023年2月17日
捕鯨禁止後にオーストラリア東部沖のザトウクジラの個体数が増加したために、雄の配偶戦術が歌うことから他の雄との身体的競争に変わった可能性のあることを指摘する論文が、Communications Biologyに掲載される。この知見は、ザトウクジラが個体数の回復を受けて、どのように社会的行動を適応させたのかを明確に示している。
オーストラリア東部沖のザトウクジラの捕獲は、個体数が絶滅寸前のレベルまで減った1960年代まで続いたが、その後、個体数は、捕鯨が始まる以前のレベルまで回復した。しかし、個体群密度の上昇がクジラの配偶戦術にどのような影響を与えたかは明らかになっていない。
今回、Rebecca DunlopとCeline Frereは、オーストラリアのペレジアンビーチ沖で1997年、2003~2004年、2008年、2014~2015年の合計123日間にわたって収集したデータを解析し、ザトウクジラの配偶戦術を研究した。この期間中に個体数は約3700頭から2万7000頭に増加した。
個体数が回復するにつれて、歌うという配偶戦略が減ったことが確認され、歌う雄クジラの割合は、10頭当たり2頭(2003~2004年)から10頭当たり1頭(2014~2015年)に減った。また、2003~2004年のデータによれば、観察対象個体(雄)が属する社会的サークルにおける雄の密度が高くなると、観察対象個体が歌う可能性が低下した。観察対象個体の社会的サークルの中に存在した歌わない雄が3頭以下の場合には観察対象個体が歌い、4頭以上の場合には観察対象個体が歌わなかったのだ。さらに著者は、歌うという配偶戦略とその他の配偶戦略(例えば、他の雄との身体的競争)による雌との配偶成功率の推移を明らかにした。雌との配偶を試みて群れに一時的に加わるところが目撃された雄が歌う雄か歌わない雄かを比較したところ、1997年のデータでは歌う雄である可能性が1.8倍高かったが、2014~2015年のデータでは歌わない雄である可能性が4.8倍高くなった。
オーストラリア東部沖の雄のザトウクジラは、個体群サイズが大きくなると、他の雄が配偶相手の候補に近づかないようにするため、歌うことを配偶戦術に選ばなくなる傾向があるのではないかと著者は推測している。また、捕鯨の対象が、主に成熟したクジラであったため、捕鯨禁止後にザトウクジラの個体群の年齢構成が変化したことも、配偶戦術の変化に影響した可能性があると著者は付言している。
doi:10.1038/s42003-023-04509-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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