ニューロテクノロジー:脳卒中後の上肢の動きを回復させる脊髄刺激療法
Nature Medicine
2023年2月21日
脳卒中後に慢性の筋力低下が見られる2人の患者で、頸髄の硬膜外電気刺激によって腕と手の動きとその強度が改善したという臨床研究の結果が報告された。これらのデータは、脳卒中後の上肢機能の回復を図る方法として脊髄刺激療法(SCS)が有望なことを示す予備的証拠となる。
脳卒中を経験した患者の4分の3近くは、その後長期間にわたって腕や手の運動の制御に不具合が見られるようになる。現在使える神経リハビリテーションの方法が限られていることが一因となって、このような運動障害は長期間残ってしまう。硬膜外SCSは脊髄に電気刺激を与える技術で臨床上承認されており、脊髄損傷患者の下肢の運動機能の長期的な回復促進に有望なことが明らかになっている。このように期待の持てる結果が出ているにもかかわらず、上肢の回復を狙った頸髄硬膜外刺激については、これまでほとんど調べられていない。
M Capogrossoたちは、卒中後に慢性の上肢筋力低下のある2人の患者(どちらも女性、31歳と47歳)の頸髄に、腕と手の筋肉を制御する神経回路を標的としてSCS用のリード線を29日間埋め込み、このような脊髄回路の継続的硬膜外SCSにより、2人の患者の腕と手の筋力と器用さが改善されたことを明らかにした。この治療によって、鍵を開ける、食事用具を使って自力で物を食べるといった細かな動きが可能になった。こうした作業は、患者の一方では9年間もできなくなっていた。さらに、このSCSによる機能の改善は、刺激を止めてから最大で4週間持続することも明らかになった。著者たちは、この方法では重篤な有害事象が全く報告されていないと述べている。
この方法の安全性、有効性を確認するには、もっと大規模なコホートでの研究が必要だと著者たちは結論している。だが、この予備的な結果が示すように、頸部SCSは将来、オンにしたときには患者の手や腕の運動機能を改善する介助技術として、オフにしたときには失われた運動機能を回復させる修復方法として、2通りに使えるかもしれないと著者たちは考えている。
doi:10.1038/s41591-022-02202-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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