HIV:幹細胞移植後の持続的なHIV-1感染寛解
Nature Medicine
2023年2月21日
白血病治療のために同種造血幹細胞移植を受けた患者で移植後9年間以上にわたって、そしてさらに抗レトロウイルス治療の一時的中止後の4年間にも、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染が持続的に抑制されたことが報告された。
同種造血幹細胞移植(HSCT)は白血病などの一部のがんの治療に用いられていて、ドナーからの未成熟な血液細胞をレシピエントの骨髄に移植して増殖させる。CCR5Δ32/Δ32 HSCTでは、HIV-1の共受容体であるCCR5をコードする遺伝子のΔ32変異を2コピー持つドナー由来細胞を移植する。このような細胞は、HIV-1感染に抵抗性を示す。がんの治療でCCR5Δ32/Δ32造血幹細胞の移植を受け、その後HIV-1感染の寛解を経験した患者としてこれまでに報告されているのは、「ロンドンの患者」と「ベルリンの患者」の2例だけである。
今回、CCR5Δ32/Δ32造血幹細胞の移植後に白血病と検出可能なHIV-1感染の両方の寛解が見られた1人の患者について、B-E Jensenたちが行った血液と組織の試料の長期的な詳しい解析結果が公表された。患者は53歳の男性で、2011年1月に急性骨髄性白血病と診断された。2013年2月に女性ドナーからのCCR5Δ32/Δ32幹細胞の移植を受け、その後に化学療法とドナーのリンパ球の注入が行われた。移植後も抗レトロウイルス治療は継続されたが、患者の血液細胞からHIV-1プロウイルスは検出されなかった。幹細胞移植から6年近く経った2018年11月に、感染性を持ったHIV-1が体内に残っているかどうかを調べるため、患者のインフォームドコンセントを得て抗レトロウイルス治療が中断されたが、HIV-1 RNAの再出現やHIV-1タンパク質に対する免疫応答の上昇は観察されなかった。これらの現象がもしあれば、抗レトロウイルス治療中断の後4年間、検出はできなくても、ウイルスの潜伏場所がなくなっていない可能性が考えられる。
HSCTはいまだにリスクの高い方法であって、現在はHIV-1感染と血液がんの両方に罹患した一部の患者だけのための選択肢でしかないが、今回の結果はHIV-1感染の長期的寛解の達成に向けた今後の戦略に役立つ情報となるだろうと、著者たちは述べている。
doi:10.1038/s41591-023-02213-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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