天文学:火星での生命探査に課題あり
Nature Communications
2023年2月22日
火星に現在配備されている科学機器について、火星環境で生命の痕跡可能性を検出できるような感度をもっていない可能性を指摘した論文が、Nature Communicationsに掲載される。
火星上で生命の痕跡を探査する試みは、1970年代のバイキング計画以降、何度も行われてきた。それから半世紀を経た今、NASAの火星探査車「キュリオシティ」と「パーサビアランス」に搭載された最新の極めて精巧な機器をもってしても、少量の単純な有機分子しか同定できていない。こうした結果から、現行機器の限界や火星の岩石に含まれる物質の性質のため、生命の証拠を十分に検出できないのではないかという疑問が生まれている。
今回、Armando Azua-Bustosたちは、チリのアタカマ砂漠に存在する河川三角洲堆積地「レッドストーン」で採集した試料を分析するという目的を設定して、最先端の実験機器とともに現在火星に配備されている機器や配備される可能性のある機器を検証した。この堆積地は、約1億6000万年~1億年前に非常に乾燥した条件下で形成したもので、現在パーサビアランスを使って調査が行われている火星のジェゼロ・クレーターと地質学的に類似している。今回の研究では、実験室内で用いる感度の高い技術を用いて、微生物(絶滅種と現生種)のバイオシグネチャー(生命の痕跡)の混合物が発見された。そして、微生物の培養と遺伝子配列解析が行われた結果、解読されたDNA配列の多くが、正体不明の「ダークマイクロバイオーム」に由来し、遺伝物質の大部分がこれまで報告されたことのない微生物に由来することが分かった。これに対して、火星で使用されているテストベッド用機器を使った分析では、微生物化石の分子シグネチャーが検出限界ぎりぎりで検出された。
数十億年前に火星に生命が存在していれば検出される有機物は、同じように少量であることが予想され、現在火星で使用されている技術で検出することは不可能でないにしても困難なことが、今回の研究で得られた知見によって示されている。Azua-Bustosたちは、火星に生命が存在したかどうかを最終的に判断するには、火星で採集した試料を地球に持ち帰ることが重要なことを強調している。
doi:10.1038/s41467-023-36172-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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