気候:気候変動によって人間と野生動物の対立が激しくなるかもしれない
Nature Climate Change
2023年2月28日
今回、Nature Climate Changeに掲載されるBriana AbrahmsたちのProgressにおいて、人間と野生動物の対立が気候変動によって増幅されるかもしれないという主張が展開されている。この知見は、気候変動の結果として人間と野生動物の双方の幸福に及ぶ将来的影響を特定し、緩和する必要性を示している。
人間と野生動物の対立は、人間と野生動物の直接的な相互作用が関わっており、その一方または両方に有害な結果をもたらす。けがをしたり、命を失ったり、財産的被害を受けたり、生活を破壊されたりするのだ。この対立を増幅させる根本原因として既に作用しているのが気候で、野生動物の生息地と人間の居住地域の分布、諸事象のタイミング、行動が変化してきている。
今回、Briana Abrahmsたちは、10目の野生動物、6大陸と全ての海洋(5海洋)を対象とする事例研究(49件)によって得られた、気候を原因とする人間と野生動物の対立を示す証拠を統合した。これらの事例研究において、この対立を増幅させる生態学的メカニズムとして最も多く言及されたのは、気候による資源不足の悪化で、事例研究の80%以上で言及されていた。もう1つの重要な要因は、野生動物の空間分布の変化で、事例研究の69%で言及されていた。この対立による結果として、事例研究で最も多く報告されたのが、人間や野生動物のけがや死と食料生産の減少だった。事例研究の43%が人間のけがや死を報告し、45%が野生動物のけがや死を報告し、45%が食料生産の減少を報告していた。また、Abrahmsたちは、事例研究の多くで、経済的に脆弱な地域社会への影響が報告された点も指摘している。また、人間と野生動物の対立は、南極大陸以外の全大陸について記録されており、さまざまな動物分類群が関係していることも示された。例えば、干ばつのためにメキシコのバクやタンザニアのゾウが村落の近くまでやってきて食料や水を探したために、農作物に被害を与え、その後報復的に殺害されたという事件があった。また、海洋熱波が発生したためにシロナガスクジラの回遊時期が変わり、船舶と衝突するリスクが高まった。Abrahmsたちは、こうした相互作用を通じて、人間と野生動物の対立が野生動物の減少を引き起こすペースが加速する可能性があるという見解を示している。
Abrahmsたちは、さらに研究を進めると同時に、人間と野生動物の双方に最適な結果をもたらすための積極的で社会的に公正な政策を策定することを求めている。
doi:10.1038/s41558-023-01608-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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