ゲノミクス:古代ヨーロッパ人の移動経路を明らかにする
Nature
2023年3月2日
古代ヨーロッパ人のゲノムデータの解析によって古代ヨーロッパ人の詳細な移動経路が明らかになった。この研究知見は、後期旧石器時代から新石器時代までの人類集団の運命とゲノム史を解明する手掛かりとなる。こうした知見を報告する2編の論文が、今週、NatureとNature Ecology & Evolutionに掲載される。
現生人類は、約4万5000年前にヨーロッパに到達し、最終氷期極大期(2万5000年~1万9000年前)を含む困難な時代を狩猟採集民として過ごした。考古学者は、後に発掘された遺物からこの時代に出現した数々の独自文化に関する知識を得たが、ヒトの化石がほとんど見つかっていないため、人類集団の移動経路や交流についてはほとんど分かっていない。
Natureに掲載されるCosimo Posthたちの論文では、古代の狩猟採集民(356個体)のゲノムを解析した研究が報告されている。このゲノムデータには、3万5000年前から5000年前までの西ユーラシアと中央ユーラシアの14カ国の116個体のゲノムデータが新たに加わっている。その結果、西ヨーロッパのグラベット文化に関連した個体が有していた祖先系統が同定され、この祖先系統を有する南西ヨーロッパの人類集団が最終氷期極大期を生き延び、マドレーヌ文化の拡大に伴って北東方向に移住したことが判明した。一方、南ヨーロッパでは、エピグラベット文化に関連する祖先系統が、おそらくバルカン半島からイタリア半島に移住してきたため、最終氷期極大期に局地的な人類集団の入れ替えが起こり、その後、エピグラベット文化に関連した個体に近縁な祖先系統が約1万4000年前からヨーロッパ中に広がり、マドレーヌ文化に関連する遺伝子プールとほぼ入れ替わったことが明らかになった。
この研究は、最終氷期極大期の末期におけるマドレーヌ文化の起源と拡大に関する長年の考古学上の論争を解決するために役立つとともに、考古学的文化の中には、混合に応じて出現したと考えられるものや環境の変化に関連して出現した可能性の高いものがあり、遺伝的入れ替えを伴うものと伴わないものがあったことを示唆している。
これとは別に、Nature Ecology & Evolutionに掲載されるVanessa Villalba-Moucoたちの論文には、スペイン南部で収集された16個体の全ゲノムデータ(2万3000年前のソリュートレ文化に関連したCueva del Malalmuerzoの男性のゲノムデータを含む)が報告されている。そして、この男性の遺伝的祖先系統が初期のオーリニャック文化に関連した祖先系統と最終氷期極大期以降のマドレーヌ文化に関連した祖先系統を結びつけるものだったことが明らかになった。このスペイン南部での遺伝的連続性シナリオは、Posthたちの論文に記述されたイタリアにおける最終氷期極大期の前後の遺伝的不連続性と対照をなしており、人類が最終氷期の極端な気候を生き抜いていた頃の南ヨーロッパのレフュジア(避難地)の人口動態に違いがあったことを示唆している。
doi:10.1038/s41586-023-05726-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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