技術:少ない費用でスマートフォンを蛍光顕微鏡に変身させる新技術
Scientific Reports
2023年3月10日
50ドル(約6500円)以下の費用でスマートフォンやタブレットを蛍光顕微鏡に転換するデバイスの原理実証研究を報告したJacob Hinesたちの論文が、Scientific Reportsに掲載される。Hinesたちは、このデバイスを「グロースコープ(glowscope)」と命名し、学校、科学の普及活動の場や一部の研究所で、細胞、組織や生物を低倍率で撮像するために使えるかもしれないという考えを示している。
蛍光顕微鏡は、蛍光染色で標識された標本や蛍光タンパク質を発現する標本、例えば緑色蛍光タンパク質でタグ標識された標本を調べるために用いられる。しかし、こうした蛍光顕微鏡は、通常、少なくとも数千ドルの費用がかかるため、潤沢な研究資金を得た研究所などでの利用に限られているのが通例だ。
今回、Hinesたちが考案したグロースコープは、プレキシガラスと合板でできた骨組み、クリップ式カメラレンズ、LED懐中電灯、劇場の舞台照明用フィルターから構成されている。この骨組みは、スマートフォンやタブレットを標本の上方に固定するために用いられ、クリップ式カメラレンズは、スマートフォンやタブレットのカメラの上にクリップで取り付けて拡大撮像できるようにしている。標本は、LED懐中電灯で照らされ、照明用フィルターをレンズの手前に差し込むことで、不要な波長の光を除去して、試料が発する蛍光を可視化している。
Hinesたちは、脊髄、心臓組織または後脳のいずれかで蛍光タンパク質を発現する生きたゼブラフィッシュの胚(長さ2~3ミリメートル)をグロースコープで撮像し、その性能を実証した。この実証実験では、クリップ式のカメラレンズによって約5倍の倍率で撮像でき、最大10マイクロメートルの解像度で緑色と赤色の蛍光組織が撮像された。これは、個々の色素細胞を観察するために十分だった。Hinesたちは、グロースコープを用いて胚の心拍数を計測し、フリーソフトウェアを使って記録された動画の鮮明度を高めたうえで、個々の心室の動きを測定した。
Hinesたちは、グロースコープの材料費は30~50ドル(約3900~6500円)であるため、学生がグロースコープを利用して、研究所から入手可能な蛍光タンパク質を発現する小型生物について、解剖学、行動、生理学、発生、遺伝の研究が行ったり、複数の蛍光顕微鏡を利用できない研究所で、複数のグロースコープとスマートフォンを同時に使用して動画データを取得できたりする可能性があるという考えを示している。
グロースコープを組み立てるために必要な部品と組み立て手順は、この論文のsupplementary informationで解説されている。
doi:10.1038/s41598-023-29182-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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