環境科学:中国の農業の持続可能性を高めるには作物の植替が役に立つ
Nature
2023年3月17日
全国規模で調整された作物の植替(crop switching)は、中国の農業に関する2030年の持続可能な開発目標の達成に大きく寄与する可能性があることを明らかにした論文が、今週、Natureに掲載される。この研究知見は、中国で作物の植替を行うことが、作物生産量や農家の所得を減らさずに環境持続可能性を向上させる可能性を持っていることを示している。
中国は、世界人口の19%、一次作物の生産量の19%、農業食料システムに関連した温室効果ガス排出量の12%を占めている。中国における農業生産の拡大は、環境課題の山積につながっており、同国は、より持続可能な農業システムを構築するための戦略を模索している。作物の植替、つまり同じ地域で異なる作物を連作したり、作物の作付分布を変えたりすることは、農業の持続可能性を向上させる有望な方法となる可能性がある。
今回、Wei Xieたちは、収穫量と収穫面積に関する作物別の高分解能データと作物別の環境フットプリント(水の推定必要量、温室効果ガスの濃度、肥料の施用率、農薬の使用量)と農家の純所得を合わせて、中国全土における作物の植替がもたらす効用の可能性を評価した。次にXieたちは、モデルを構築して、作物の植替が持続可能な農業開発に対してどのように寄与するのかについてのシミュレーションを複数の側面と地域にわたって実施した。今回の研究では、中国国内の一次作物生産量の94%、収穫面積の90%を占める合計13種の作物(小麦、米、大豆など)が対象となった。その結果、作物の植替は、政策の調整と最適化が全国レベルで行われた場合に、地表水と地下水(いわゆるblue water)の使用量の6.5%削減、温室効果ガスの6.5%削減、肥料の使用量の削減(肥料の種類により8.1~9.8%の削減)などの環境影響の低減を達成するために役立ち、同時に農家の所得を4.5%増加させることが示された。これに対して、政策の調整が、政府部局単位で行われ、それぞれの部局が農業の持続可能性の1つの側面を優先して政策調整を行った場合には、作物の植替は、持続可能性のいくつかの側面に良い結果をもたらす一方で、それとのトレードオフで他の目標達成ができなくなる可能性が示された。
また、このモデルは、特定の作物の作付分布の地域的変更の一部について、持続可能性の複数の側面に利益がもたらされることも明らかにした。例えば、中国東北部の平原で作物の生産地を移動させて、トウモロコシから大豆、てん菜と米へ転換することは、農家の所得を増やし、肥料や農薬の過剰使用を削減することにつながると考えられている。全体として、全国規模で最適化された作物の植替は、中国の肥料と農薬の使用に関する2030年の持続可能な開発目標の達成にそれぞれ40%(肥料の使用)と23%(農薬の使用)の寄与をするかもしれないとXieたちは指摘している。
Xieたちは、複数の持続可能な開発目標を実現し、持続可能性の複数の側面とのトレードオフを回避するには、中央政府が主導する全国規模での調整が必須だと結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-05799-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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