Research Press Release

環境:中世の月の観測記録から浮かび上がった当時の火山活動

Nature

2023年4月6日

中世盛期(西暦1100~1300年)の月食の観測記録は、ヨーロッパの僧侶によって作成されたものが多いが、同時代の火山活動を理解するために役立つ可能性のあることが研究によって明らかになった。今回の研究は、火山噴火が気候に及ぼす影響に関する知見ももたらしている。この研究結果を報告する論文が、Natureに掲載される。

過去の火山活動の年代測定をすることは、気候と社会に対する火山活動の影響を理解するために必要だが、現行の手法(例えば氷床コアの年代測定)には、数々の不確実な点がある。中世盛期の火山活動は、小氷期への移行に何らかの役割を果たした可能性があり、重要視されている。しかし、手法の不確実性のために、中世盛期の火山活動の調査は、あまり進んでいない。火山の噴火に伴うエアロゾルの放出は、月の光度に影響を与えることがあるため、過去の月食の記録は、過去に起こった噴火の特定と年代測定に役立つ。

今回、Sébastien Guilletたちは、主にヨーロッパの僧侶や聖職者によって収集された12世紀から13世紀までの歴史記録を分析し、地球に入射する太陽放射量を減らす火山灰の「ベール」を観測できるようにした皆既月食を特定した。Guilletたちは、この文書証拠を使って、この火山灰のベールの色と光度をランク付けし、そこから成層圏のエアロゾル含有量を推定した。Guilletたちは、火山噴火から成層圏にエアロゾルが生成されるまでの期間に関する現在の理解と過去の年輪記録を合わせた上で、中世の火山噴火の時期を逆算して、気候効果を生み出すと考えられている成層圏に影響を及ぼした火山噴火と対流圏だけに影響を及ぼした火山噴火を分別した。この研究知見は、火山の噴火時期の推定を向上させ、エアロゾルが大気中に放出された場所を特定するために役立つ。Guilletたちは、今回の論文に示されたデータセットが、将来的に、こうした火山噴火が小氷期の開始において果たした役割を解明するための研究に役立つかもしれないと期待している。

doi:10.1038/s41586-023-05751-z

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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