環境:先住民族が居住するアマゾン熱帯雨林の保護が人間の健康と経済に便益をもたらす
Communications Earth & Environment
2023年4月7日
ブラジルのアマゾン川流域の先住民族の居住地を森林破壊から守ることは、大気汚染(森林火災の煙によって放出される粒子など)に関連しているかもしれない呼吸器感染症と心血管感染症(合わせて推定1500万例)の予防に役立つ可能性があるとした論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。この研究知見は、アマゾン川流域の先住民族の居住地を保全することで、この地域に生活する先住民族やその他のコミュニティーの健康関連費用を毎年20億米ドル(約2600億円)以上節約できるかもしれないことを示唆している。
アマゾンの熱帯雨林は、全世界に残っている熱帯林全体の半分に相当するが、森林破壊率は地球上で最も高くなっている。アマゾン川流域の約22%は、先住民族の居住地だ。森林破壊の主な原因の1つが火災であり、2019年だけで9万2000平方キロメートル以上の森林が火災によって失われた。このような森林火災は、煙粒子を大気中に放出するために公衆衛生上の脅威となっており、煙を吸い込むことが呼吸器感染症や心血管感染症の一因になることがある。さらに、森林破壊は、大気から汚染物質を除去し、大気の質を改善するバイオフィルターとして機能する健全な森林の喪失を意味する。
今回、Paula Pristたちは、ブラジルのリーガル・アマゾン地域における住民の健康状態、森林被覆と大気中の粒子状物質の濃度に関するデータを解析した。その結果、2010年から2019年までの間に毎年1.68メートルトンの微粒子が放出されたと推定され、この放出量と火災の発生件数の増加との間に相関性が認められた。そして、Pristたちは、森林火災に関連した呼吸器感染症と心血管感染症の発症率が高くなるため、森林の焼失面積1ヘクタール当たり200万米ドル(2億6000万円)の医療費が発生する可能性があると推定している。
Pristたちは、呼吸器感染症と心血管感染症の症例に関する全国データを用いて、森林火災の煙だけでなく都市部の汚染も含めた大気汚染に関連する可能性のある感染症の発症率を推定した。Pristたちが構築したモデルに基づく推定によれば、先住民族の居住地で森林を保全することは、年間1500万件の煙に関連した呼吸器感染症と心血管感染症の予防に役立つ可能性があるとされた。Pristたちは、これにより、年間20億米ドルの医療費を節約できるかもしれないという見解を示している。また、森林被覆率の高い市町村は、森林被覆率の低い市町村よりも感染症の発症率が低かった。Pristたちは、緑地が多い地域や樹木被覆率の高い地域ほど粒子状物質の濃度の低下が著しくなるという見解を示し、先住民族の居住地の森林を保全することは、先住民族のコミュニティにおける健康維持に直接役立つと考えている。
Pristたちは、アマゾン熱帯雨林を保全することは、人類、とりわけ先住民族の健康と経済に大きな便益をもたらすと結論付けている。
doi:10.1038/s43247-023-00704-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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