微生物学:尿路感染によってゲノムが修飾され、過去の感染が記憶される
Nature Microbiology
2023年4月11日
マウスで、尿路感染症(UTI)が宿主のゲノムに長期間持続する修飾を引き起こして免疫記憶を生じさせ、これがその後のUTIから回復するどうかに影響する可能性があることが示された。このことを報告する論文がNature Microbiologyに掲載される。今回の知見は、再発UTIについての洞察をもたらし、感染防止策の進歩にもつながるかもしれない。
UTIは世界で最もありふれた細菌感染の1つで、それ以外に病気のない女性の主な死亡原因の1つである。尿路病原性大腸菌(UPEC)といった細菌が原因となるが、UTI発症の最も強力なリスク因子の1つは、感染歴の有無である。しかし、再発性の感染をもたらす機構はよく分かっていない。
Scott Hultgrenらはこれまでに、UPECに感染しながら最初の感染から自発的に回復できたマウスは、その後の感染からも迅速に回復できることを明らかにした。しかし、このマウスと遺伝子的には同一だが、最初の感染を抗生物質の投与を行わないと回復しなかったマウスは、その後の感染にも感受性だった。ある種の免疫細胞には、trained immunity(訓練による免疫、自然免疫記憶)と呼ばれる種類の記憶が生じ、遺伝子の活性化がその後の曝露に対する予備刺激となる。エピジェネティック標識と呼ばれる化学修飾がDNAや関連タンパク質に付加され、道路標識のように働いて最終的に免疫応答に関わる遺伝子の発現が上昇する。今回の研究で、著者らは、マウスがUPECから回復後に膀胱内壁から単離した非免疫細胞に、観察された「記憶」の要因となるエピジェネティック標識が残っていることを発見した。著者らは、このような自然免疫記憶は次の感染時に感染細胞や細菌を排除するのを助けるが、同時に炎症や組織の損傷を引き起こす過剰で長期的な遺伝子発現にもつながるので、マウスが重度の長期感染を起こしやすくなることも指摘している。
著者らは、マウスではUTIが引き金となって尿路組織に自然免疫記憶が生じることから、一般には非免疫細胞と考えられている細胞も、感染への応答に重要な役割を担っている可能性があると結論付けている。また著者らは、これらの知見は他の感染や炎症性疾患にも重要な意味を持つが、さらなる研究が必要だとも述べている。
doi:10.1038/s41564-023-01346-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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