がん:肺がんの進化過程を解明して得られた臨床転帰に関する新たな知見
Nature
2023年4月13日
NatureとNature Medicineに今週掲載される7編の論文には、肺がんが時間の経過とともにどのように進化するのかという点を包括的に解析した結果が示されており、「治療法が効かなくなる」状況が時々起こる原因を説明するために役立つ可能性が明らかになった。これらの論文で報告される研究は、TRACERx(TRacking Cancer Evolution through therapy (Rx))の一環として行われたもので、このプログラムに最初に登録された421人の患者から採取された1600点を超える腫瘍検体の解析が含まれている。
肺がんは、世界のがん関連死の主たる原因の1つだが、肺がんの根底にある生物学的機構の全容は解明されていない。腫瘍は、さまざまな種類のがん細胞で構成されており、それぞれのがん細胞の性質は異なっている。このことを指して「腫瘍内不均一性」と言うのだが、これが腫瘍の進化とがんの進行を引き起こす場合がある。TRACERx研究の目的は、腫瘍内不均一性と臨床転帰との関係を明らかにすることにある。
これら7編の論文の中で代表的なCharles Swantonらの論文では、最も多くみられるタイプの肺がんである非小細胞肺がん(NSCLC)の患者(421人)から手術中や経過観察中に採取した1644例の腫瘍領域を評価した結果が示されている。この421人のコホートは、さまざまなNSCLCサブタイプ(肺腺がん248例を含む)のステージI、IIまたはIIIの患者から構成されている。Swantonらは、患者の転帰に関連するゲノム安定性と腫瘍内不均一性のパターンの違いを明らかにした。
Swantonらの別の論文では、腫瘍が再発したり、他の部位へ転移したりする原因だけでなく、腫瘍内不均一性に対する白金製剤を使った化学療法(進行NSCLCに対する標準的な治療法)の効果を調べた結果が示されている。この化学療法に関しては、腫瘍の進化と腫瘍内不均一性に寄与することが明らかになった。残りの5編の論文の一部では、循環血液中の腫瘍DNA(臨床転帰のマーカー候補の1つ)の証拠を検出できるツールの実証、腫瘍のどの部分が再発の原因となる可能性があるのかを予測する因子の同定といった新知見が報告されている。
Swantonらは、腫瘍のゲノム進化を解明すれば、がんがいつどのように再発するかを決定する因子に関する知見が得られ、それによって腫瘍の生物学的性質の理解が深まり、将来的には、がん患者の臨床転帰を改善する試みを後押しできる可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-05729-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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