保全:アビは北海の洋上風力発電所に寄り付かない
Scientific Reports
2023年4月14日
北海の洋上風力発電所の1キロメートル圏内で、魚食性の海鳥であるアビの個体数が94%減少したという研究結果を示した論文が、Scientific Reportsに掲載される。この新しい知見は、洋上風力発電と再生可能エネルギー需要のバランスを取りながら、洋上風力発電所が海鳥に与える影響を最小限に抑えることの必要性を明確に示している。
これまでの研究から、洋上風力発電所への海鳥の応答は海鳥種によって異なることが明らかになっている。生息地の移動につながる地域での生息を避ける海鳥種もいれば、風力発電所のタービンとの衝突による死亡率が高まるような地域に引き寄せられる海鳥種もいるのだ。しかし、洋上風力発電所が海鳥の個体数に及ぼす長期的な影響を推定することは難しい。
今回、Stefan Gartheたちは、北海南東部の5つの洋上風力発電所群(BARD/Austerngrund、ダンティスク、ブーテンディ-ク、ヘルゴラントとボルクム島北方沖)の建設前後で、アビの個体数がどのように変化したのかを調べた。この研究では、2010年から2017年までの各年3月と4月に収集された海洋調査、航空機測量、デジタル航空測量によるアビの個体数データが使用された。これをもとにGartheたちは、風力発電所から10キロメートル圏の内外でのアビの個体群密度の変化をモデル化した。
Gartheたちは、風力発電所が建設された後、アビの分布と個体数に有意な変化が見られ、タービンのすぐ近くにおけるアビの個体数が少なくなり、その分布が「丸い光の輪」のようなパターンになったことを報告している。アビの個体数は、風力発電所の1 km圏内で94%減少し、10キロメートル圏内で54%減少した。特に、BARD/Austerngrundとボルクム島北方沖の風力発電所群の付近では、アビは完全にいなくなった。その代わりにアビはヘルゴラント洋上風力発電所群の北西域に高密度で集まっていた。全体的には、アビの総個体数の推定値は、風力発電所建設前の3万4865羽から建設後の2万4672羽へと29.24%減少した。Gartheたちは、風力発電所の存在に対して、これほど重大な否定的反応を示した海鳥は他にいなかったと報告している。
Gartheたちは、アビの活動範囲が狭くなったことが今回の研究で判明したことを踏まえて、洋上風力発電所が建設されたことで、今後、アビが魚を採餌する活動のパターンに変化が生じるという見方を示しており、洋上風力発電所が立地する全海域で、風力発電所の累積的影響に関する通年研究を増やすことを推奨している。
doi:10.1038/s41598-023-31601-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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