環境:ケルプ藻場の価値はこれまで考えられていた以上に大きいかもしれない
Nature Communications
2023年4月19日
全世界のケルプの藻場は、主に漁業生産と窒素除去に利用されることによって、年間平均5000億米ドル(約65兆円)を生み出しているという評価結果を報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。また、主要なケルプ藻場が吸収している大気中の炭素は、年間約500万トンと推定されることも明らかになった。これらの知見は、ケルプ藻場という海洋生態系の価値が、これまで考えられていたよりも平均で約3倍大きいことを示唆しており、ケルプ藻場を利用して気候変動を緩和する可能性を明確に示している。
ケルプとは、褐色の大型海草の総称である。ケルプの藻場は、貴重な生態系であり、文化的にも社会経済的にも重要なことが知られているが、世界中のケルプ藻場の価値を定量化することは難しかった。ケルプ藻場は、世界の多くの地域で減少しており、この生態系の人間社会への貢献が正確に評価されていないため、ケルプ藻場の管理はうまくいっていない。
今回、Aaron Egerたちは、漁業生産(ケルプ生態系が漁獲種の生息を支えている)、栄養循環、炭素除去という3つの主要な生態系サービスに関して、全世界の主要6種類のケルプ藻場の経済的価値と生態学的価値を調べた。その結果、それぞれの種類のケルプ藻場が全世界で1ヘクタールあたり年間最大14万7100米ドル(約1912万円)を生み出しており、その価値の総額は年間最大5620億米ドル(約73兆円)に上ることが分かった。ケルプ漁は1ヘクタールあたり年間約2万9900米ドル(約389万円)を生み出しており、大気中の窒素を除去することによって栄養循環において果たす役割を考慮に入れると、さらに1ヘクタールあたり年間7万3800米ドル(959万円)を生み出している。これらの主要6種類のケルプ藻場は、1年間で推定491万トンほどの炭素を大気から吸収しているとされ、気候変動を緩和するブルーカーボン生態系としての可能性が示唆されている。そして、市場性生態系サービスや非市場性生態系サービス(例えば、海岸保全、他の種類の海洋生態系の支援、観光の支援など)の評価が積み重なると、ケルプ藻場の価値は増加することが予想される。
Egerたちは、ケルプ藻場は、人間社会と気候変動による数々の圧力の脅威にますますさらされているため、ケルプ藻場の保全と回復のための活動がさらに必要になっているという見解を示している。
doi:10.1038/s41467-023-37385-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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