生物工学:細菌の構造体を利用して作物の光合成を促進する
Nature Communications
2023年4月26日
遺伝子工学的手法を用いて、ある種の細菌に存在する特定の構造体が作物の葉緑体において産生されるようにすると、理論上は、その構造体の内部のCO2濃度が上昇して、作物の光合成が促進され、成長速度が高まる可能性があると考えられている。このことに関連した概念実証研究について報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の研究で得られた知見は、光合成効率が向上した葉緑体の開発に役立ち、将来的には作物の収量増加につながるかもしれない。これは、食料安全保障にとって重要な意味を持つ可能性がある。
世界の人口は、2050年に100億人近くまで増加する傾向にある。気候変動の下で、これだけの数の人々に十分な食料を供給するために緊急に必要とされるのが、世界の作物生産性の向上だ。ルビスコは、葉緑体に含まれる酵素で、大気中のCO2を取り込む役割を担っているが、ルビスコの周囲のCO2濃度を上昇させることは、植物の光合成において高エネルギーの糖を産生するために重要だ。細菌の一種であるプロテオバクテリアは、カルボキシソーム(特殊化した微小な細胞区画)を使ってルビスコの周囲に大量のCO2を供給することが知られている。作物において十分に機能するカルボキシソームが産生されるようにすることは、長い間の研究目標だが、まだ実現されていない。
今回、Yongjun Lin、Lu-Ning Liuらは、Halothiobacillus neapolitanusに由来するカルボキシソーム構成タンパク質の全体をタバコの葉緑体に導入した。その結果、カルボキシソームが正常に機能し、CO2を補充した空気中でのタバコの成長を支えたことが明らかになり、光合成能力が向上した葉緑体の作出にとって重要な一歩前進となった。
著者らは、この技術が、作物収量の向上への道を開き、増加する世界人口に対して十分な食料を供給するために役立つかもしれないという考えを示している。
doi:10.1038/s41467-023-37490-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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