生態学:アジアでは1700年以降にゾウの生息適地の64%以上が失われてしまった
Scientific Reports
2023年4月28日
アジア全域においてアジアゾウ(Elephas maximus)の生息に適した土地(生息適地)が、1700年以降に64%以上減少し、330万平方キロメートルが失われたという試算を示したShermin de Silvaたちの研究論文が、Scientific Reportsに掲載される。アジアゾウの生息適地は、何世紀にもわたって比較的安定的に推移した後、1700年以降には減少に転じたが、それが、南アジアにおける植民地時代の土地利用慣行とその後の農業集約化と符合しているとde Silvaたちは指摘している。
アジアゾウの生息地は多様で、草原、熱帯雨林などが含まれている。しかし、人間による土地利用の増加とゾウの生息地の減少に伴い、アジアゾウと人間の衝突が起こり得る状態になっている。ゾウの生息地の歴史的分布と土地利用の変化を調べる研究では、ゾウと環境要因に関するデータを使ってモデルを作成し、一定地域の全体における生息地適合性とその経時変化を推定することができる。
今回、de Silvaたちは、西暦850年から2015年までの13カ国におけるアジアゾウの生態系の拡大と分断の推移を推定し、1700年から2015年までの生息適地の変化を算定した。あらかじめ決めておいた閾値を超えた生息地が、生息適地に分類され、生態学的基準(一次林と牧草地の割合、非森林植生、作付様式と灌漑様式、木材伐採量、都市化などを含む)に基づいて生息適地のモデルが作成された。
de Silvaたちは、アジアにおける現在のゾウの生息域とそこから100キロメートル圏内の地域を比較検討した。この100キロメートル圏内の地域は、1700年の時点で100%が生息適地に分類できたが、それが2015年には半分以下(48.6%)に減少した。そして、中国本土、インド、バングラデシュ、タイ、ベトナム、スマトラ島では、それぞれゾウの生息適地の半分以上が失われており、減少が最も顕著だったのは、生息適地の約94%が失われた中国と生息適地の約86%が失われたインドだったことが示された。ボルネオ島の土地に関する推定では、ゾウの生息適地が拡大したことが示唆された。de Silvaたちは、アジアゾウの生息適地が減少したことで、アジアゾウと人間の衝突が起こる可能性が生じたという見解を示している。
de Silvaたちは、アジアにおけるゾウの生息地分布に関する理解を深め、ゾウと人間の双方のニーズを満たすような持続可能性の高い土地利用戦略と保全戦略の策定を支援するためには、過去の土地景観を考慮に入れることが重要だと結論付けている。
doi:10.1038/s41598-023-30650-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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