神経科学:米国では州レベルの経済的要因によって収入と脳構造やメンタルヘルスとの関連が緩和されているかもしれない
Nature Communications
2023年5月3日
米国では、各州における生活費と低収入世帯向け貧困対策プログラムの質的充実が、9~11歳児の脳構造やメンタルヘルスとその家庭の世帯収入との関連を緩和している可能性があるという研究結果を報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
これまでの研究で、低収入の家庭で育つことが、メンタルヘルスの低下や脳構造の変化に関連することが分かっており、この関係の原因が、低収入の家庭内で経験する強いストレスであることを示唆する証拠もある。そのため、米国では、州レベルの金銭的ストレス関連要因、例えば、生活費や貧困対策プログラムの質的充実(現金支給、メディケイドの拡充を含む)が、低収入とメンタルヘルスや脳構造との関連の強さを緩和している可能性がある。しかし、この関連を実際に調べることは困難だった。
今回、David Weissmanらは、米国在住の小児の脳サイズやメンタルヘルスと収入の関連を調べて、この関連の強さが、州レベルの金銭的ストレスに関連する諸要因によってどのように異なっているかを調べた。今回の研究では、Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD)研究で得られた生活費の異なる国内17州のいずれかに居住する9~11歳の小児のデータと貧困対策プログラムのデータが用いられた。これらのデータには、世帯収入、(1万633人の小児の)メンタルヘルス、(9913人の小児の)脳構造のそれぞれの測定値が含まれている。Weissmanらは、低収入が、不安、抑うつ、外在化問題行動(攻撃的行動やルール違反など)が多いことや、海馬(学習や記憶に関与する脳領域)の容積が小さいことと関連していることを明らかにした。これらの関係の強さは、貧困対策プログラムの質的充実が図られている州の方がそうでない州よりも緩和されており、生活費の高い州で特に顕著だった。このパターンは、いくつかの州レベルの社会変数、経済変数、政治変数を考慮に入れた場合にも同じように見られた。
今回の知見は、この研究で検証された特定の政策の有効性を評価したものではないが、Weissmanらは、州レベルのマクロ構造的要因が、低収入と神経発達の関連を理解する上で重要な意味を持っているという考えを示している。
シュプリンガー・ネイチャーは、国連の持続可能な開発目標と、学術論文誌や書籍に掲載されている関連情報や証拠の認知度を高めることに尽力しています。このプレスリリースに記載されている研究は、SDG 1(貧困をなくそう、No Poverty)に関係しています。詳細については、こちらを参照してください。(https://press.springernature.com/sdgs/24645444)
doi:10.1038/s41467-023-37778-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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