生態学:雄のケナガマンモスも発情期を経験していた
Nature
2023年5月4日
雄のケナガマンモスには、近縁の現生ゾウと同じように発情期があったことを示唆した論文が、Natureに掲載される。発情期は、テストステロンにより行動や生理状態が変化する時期で、生殖の成功に関連している。今回の研究では、推定年代が約3万9000~3万3000年前とされる雄のマンモスの牙の象牙質に含まれるホルモンの濃度が変動していたことが明らかになった。こうした知見は、古代と現代の動物においてホルモンが引き起こす行動を調べるために、歯(イッカクの一本角を含む)のホルモン濃度の分析が有益であることを示している。
ケナガマンモスの生殖生理と行動の多くの特徴、例えば、成体の雄ゾウの場合と同様にテストステロン濃度の上昇を伴い、生殖の成功に関連する発情期があったのかどうかといったことは判明していない。牙を形成する骨性物質である象牙質の層には成長記録が保存されており、マンモスの生活史の詳細を復元するために利用できるため、牙は重要な情報源になっている。今回、Michael Cherneyらは、この記録の潜在的価値を評価するため、現生アフリカゾウと、3万8866~3万3291年前に生息していたと推定される雄のケナガマンモスと、5885~5597年前に生息していたと推定される雌のケナガマンモスの牙を調べて、ホルモン濃度の変動の特徴を探索した。
分析の結果、アフリカゾウの場合、雄は、成体期にテストステロン値が上昇したが、それより若い時期には上昇しておらず、テストステロン値の上昇期が交尾の季節の発情期と一致していたことが明らかになった。テストステロン値は、同じ年の他の時期の最大20倍に上昇していた。雄のケナガマンモスの牙から採取されたサンプルでは、成体期のテストステロン値に同様の変動が見られたが、上昇率はアフリカゾウよりも低かった(他の時期の約10倍)。Cherneyらは、雄のケナガマンモスのホルモン濃度の上昇がアフリカゾウほど大きくなかった原因として、ホルモンのサンプルが分解していた可能性がある点を指摘している。一方、雌のケナガマンモスの場合には、テストステロン(とプロゲステロンとアンドロステンジオン)の濃度は、雄のマンモスとゾウよりも低く、雌のテストステロン値には、ほとんど変動が見られなかった。
Cherneyらは、以上の知見はケナガマンモスに発情期があったことを示す初めての内分泌学的証拠であることを報告している。Cherneyらは、今回の研究では、歯の成長記録から生活史上の出来事に関連したホルモンの変化が明らかになる可能性が示されたと結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06020-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
化学:アルゴリズムは、ウイスキーの最も強い香りと原産地を嗅ぎ分けることができるCommunications Chemistry
-
天文学:月の年齢はより古いNature
-
気候変動:南極の海氷減少が嵐の発生を促すNature
-
天文学:天の川銀河の超大質量ブラックホールの近くに連星系を発見Nature Communications
-
惑星科学:土星の環が若々しい外観を保っている理由Nature Geoscience
-
惑星科学:木星の衛星イオに浅いマグマの海はないNature