進化学:アフリカにおける人類の起源のモデル化
Nature
2023年5月18日
アフリカにおける人類の起源を記述する場合、数十万年の間に進化系統樹の2本以上の枝が分岐した(しかしその後も混合が繰り返し起こった)というモデルを用いるのが最も適切であり、このいわゆる「weakly structured stem(弱く構造化したステム)」が、アフリカのヒト祖先集団の形成に寄与したという考え方を示す論文が、Natureに掲載される。この祖先集団は、その後、現代のアフリカ系集団だけでなく、アフリカ以外で生活する全ての集団に分岐した。
ホモ・サピエンスの起源はアフリカにあると広く理解されているが、人類の進化系統樹の枝がどのように分岐し、人類がアフリカ大陸をどのように移動したかといった点については、確かなことが分かっていない。その理由としては、化石データや古代ゲノムデータが少ないことと、現代人のDNAを使って構築されたモデルを用いた予測と化石記録が一致しない場合があるという事実が挙がっている。
今回、Aaron Ragsdale、Brenna Henn、Simon Gravelらは、アフリカ南部、東部、西部の集団ゲノムデータを取り入れて、古人類学と遺伝学の文献で提案されたアフリカ全土での人類の進化と移動に関する数種類の競合モデルを検証した。このゲノムデータには、現代のアフリカ南部の先住民集団であるナマ人(44人)の新たに塩基配列決定されたゲノムも含まれている。ナマ人の遺伝的多様性は、他の現生人類集団と比較して非常に高いことが知られている。著者のモデルによると、現代のヒト集団のゲノムデータから検出可能な初期人類集団の最古の分岐は、集団間の遺伝的分化が弱い2つ以上のヒト属人類集団が数十万年にわたって混合を続けた後に起こり、今から12万~13万5000年前のことだったと示唆されている。古代ヒト族は、この集団分岐の後もステム集団の間を移動していたため、弱く構造化したステムが形成された。著者らは、このモデルは、従来のモデルと比べて、ヒト個体間とヒト集団間の遺伝的多様性をよりよく説明できると考えている。
著者らのモデルを用いた予測によれば、現生人類の集団間の遺伝的分化の1~4%は、このステム集団の遺伝的多様性に起因していると考えることが可能だとされる。そして、著者らのモデルは、化石記録の解釈に重要な影響をもたらす可能性がある。進化系統樹の枝の間で移動があったため、こうした複数のヒト系統は形態的に類似していた可能性が非常に高い。これは、形態的に異なるヒト科動物(ホモ・ナレディなど)が、ホモ・サピエンスの進化に寄与した進化系統樹の枝であった可能性は低いことを意味している。
doi:10.1038/s41586-023-06055-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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