神経科学:脳が出す信号を使って慢性疼痛を解読する
Nature Neuroscience
2023年5月23日
痛みを感じている人の脳が出す信号を使って痛みの程度を推測できることを示唆した論文が、今週、Nature Neuroscienceに掲載される。この知見は、ヒトの慢性疼痛を直接検出する研究で得られた初めての成果であり、慢性疼痛(卒中後痛や幻肢痛など)の患者を治療する方法の開発に役立つ可能性がある。
長期慢性疼痛は、深刻な障害と経済的コストの一因となる大きな公衆衛生問題の1つだ。現在の治療法は、慢性疼痛を管理するために不十分なことが多く、治療薬として処方されることが多いオピオイドは、患者による過剰摂取というリスクを伴う。疼痛の重症度は、通常、自己申告による評価方法を用いて評価されるが、痛みは主観的で、個人差のあることが分かっており、不完全な評価方法とされる。疼痛の客観的なバイオマーカーを見つけることは、慢性疼痛の診断と治療法開発の指針として役立つと考えられている。
今回、Prasad Shirvalkarらは、慢性疼痛の患者(4人)の前帯状皮質と眼窩前頭皮質(いずれも疼痛に関連する脳領域)に電極を埋め込んだ。これらの患者は、3~6カ月にわたって、痛みのレベルを自己申告し、その間に電極が脳の活動を記録した。この研究で、Shirvalkarらは、機械学習法を用いて、脳活動の記録から各患者が自己申告する痛みの重症度スコアを高感度で推定することに成功した。また、慢性疼痛(眼窩前頭皮質の活動とより強く関連していた)と、実験者が引き起こした急性熱痛(前帯状皮質の活動とより強く関連していた)を鑑別できることも明らかになった。
Shirvalkarらは、これらの観察結果が、将来的には脳内で痛みを瞬時に検出して回避するシステムの開発に役立つ可能性があるという見方を示している。
doi:10.1038/s41593-023-01338-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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