環境:難民の移動によるウォーターフットプリントを算出する
Nature Communications
2023年5月24日
難民の地位を求める人々の大多数は、難民受け入れ国の水需要にほとんど影響を与えていないか、全く影響を与えていないが、2005~2016年に全世界の難民の移動によるウォーターフットプリントが75%近く増加したことが明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見から、水需要の増加が、国内の食料生産への依存度が比較的高い、少数の水不足の国々(パキスタン、イラン、トルコ、レバノン、ヨルダンなど)に主に集中していることが明らかになった。一方、食料消費量の増加に伴う水ストレスに関しては、欧州連合など圧倒的多数の移住先の国々で顕著な問題になっていないことが分かった。著者らは、食料貿易政策と難民の再定住政策を少し手直しすることで、難民の移動が水に対して脆弱な国々の水ストレスに及ぼす影響が緩和されるかもしれないという考えを示している。
人々が消費する水の大部分は、食料生産に充てられている。世界の難民の総数は、2005年(1210万人)から2016年(2310万人)までの間にほぼ倍増し、記録上最も大きな伸びとなった。紛争によって難民となった数百万の人々が水不足の国々に避難しているが、このことが、それぞれの受け入れ国のウォーターフットプリント(国内取水量と定義される)に及ぼす影響については、はっきりしたことが分かっていない。
今回、Marc Muellerらは、難民の移動が受け入れ国のウォーターフットプリントに与える影響を調べるため、2005~2016年の世界統計データを解析し、それぞれの年について、難民の数とそれぞれの受け入れ国の1人当たりのウォーターフットプリントを調べた。そして、Muellerらは、2005~2016年に難民の移動を引き起こした地政学的紛争の発生地を検討し、水ストレスが増加した地域が、既に水が不足していた中東の国々に集中していることを明らかにした。例えば、ヨルダンでは、難民の移動が原因で水ストレスが最大75ポイント増加したことが判明している。Muellerらは、難民の移動による影響は、大部分の国々では極めて小さいが、既に深刻な水ストレスに直面し、食料生産のために主に国内の水資源に依存する傾向がある国々では、深刻な影響が生じる場合があると考えている。これは、難民が移住先の国へ移動することに伴う水需要の移転が、世界規模の貿易ではさほど緩和されないことを意味している。
Muellerらは、難民による食料の消費に伴う水需要の増加のために、既に拡大し過ぎている水セクターが不安定化する可能性のある国が複数存在すると結論付け、差し迫った水の危機を緩和するための有望な短期的対策として、各国の国内での食料生産における水利用効率を向上させるための介入と、水の豊富な国々から水を大量に消費する食料の輸入を増やす政策を併用することを挙げている。
doi:10.1038/s41467-023-38117-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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