発生生物学:母乳中の代謝物によって新生仔マウスの心臓の発達が促進される
Nature
2023年5月25日
母乳に含まれるγ-リノレン酸(脂肪酸の一種)が、生まれたばかりのマウスの心臓の成熟に重大であることを明らかにした論文が、Natureに掲載される。この知見は、環境要因が出生後の新生仔マウスの心臓の発達に影響を及ぼす機構の解明を前進させた。
新生仔が出生すると、その心臓は、新たな課題に直面し、心臓細胞のさまざまな変化と成熟が必要になる。例えば、心筋細胞(収縮性のある心臓細胞)は、心臓の効率的な拍動が一生続くように、燃料基質の選好をグルコースから脂肪酸へと変える必要がある。しかし、この成熟過程の根底にある機構については、十分な理解に達していない。
今回、Mercedes Ricoteらは、マウスの母乳に含まれるγ-リノレン酸(GLA)が、出生後の新生仔マウスの心臓の代謝適応を指示する役割を担っていることを明らかにした。GLAはマウス(またはヒト)の体内で合成できないため、摂取する必要がある。無脂肪食を摂取した母親の乳を与えられた新生仔マウスは、出生後2日以内に死亡した。これに対して、この母乳にGLAを添加して与えたところ、新生仔マウスは、正常に生き続けた。また、Ricoteらは、GLAが、心筋細胞のレチノイドX受容体に結合して活性化させて、心筋細胞の代謝成熟過程を開始させることを明らかにした。
Ricoteらは、今回の研究がマウスのみを対象としたものであり、ヒトの母乳に含まれるGLAが、同様に新生児の心機能や代謝の成熟に必須かどうかは、今後の研究によって明らかにされるだろうと指摘している。
doi:10.1038/s41586-023-06068-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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