生理学:超音波が、マウスとラットで冬眠に似た状態を誘発する
Nature Metabolism
2023年5月26日
超音波パルスを頭部に照射すると、マウスやラットでも可逆的に冬眠に似た状態を引き起こせることを報告する論文が、Nature Metabolismに掲載される。この非侵襲的な方法は、体温と代謝速度の低下につながる脳の神経細胞を一時的に活性化するもので、将来的には、医学や長距離の宇宙飛行にまで応用できる可能性がある。
休眠とは冬眠に似た生理的状態であり、この状態にある哺乳類は代謝を抑制し、体温を下げ、さまざまな過程の進行を遅らせてエネルギーを節約する。この状態を制御するのは、中枢神経系だと考えられている。超音波は非侵襲的に頭蓋骨を透過して脳へ照射でき、ニューロンに照射するとこれを活性化することが、動物で明らかになっている。
今回、Hong Chenらは、自由に動くマウスの頭部に装着できる超音波エミッターを開発した。そして、冬眠を調節することが知られている脳領域である視床下部の視索前野を標的として、10秒の超音波パルスを照射した。これが引き金となって、雄雌共にすぐに体温が数度(平均3~3.5℃)低下し、同時に心拍数と酸素消費も低下したが、2時間以内にこれらは完全に元に戻った。そこでChenらは、この超音波エミッターを自動化システムと組み合わせ、体温が上昇し始めたら超音波パルスを繰り返し与えるようにしたところ、マウスのこの休眠に似た状態を最長24時間維持することができ、損傷や異常の兆候は全く見られなかった。また、本来は冬眠することのないラット12匹でもこの方法がうまく働くことを明らかにした。ただし、ラットの体温低下は、平均してわずか1~2℃だった。この結果は、代謝応答を調節する生理学的過程が冬眠しない哺乳類にも備わっている可能性があることを示していると、Chenらは述べている。
Chenらは、この方法がヒトでも安全に働くかを調べるにはさらに研究が必要だが、代謝の速度を抑え、体温を下げる非侵襲的で可逆的な方法があれば、緊急事態や重篤な急性疾患後の医療への応用が可能であり、また将来的には長距離の宇宙旅行にも役立つ可能性があると主張している。
doi:10.1038/s42255-023-00804-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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