COVID-19:オーストラリア先住民族において、SARS-CoV-2ワクチン接種に対する抗体応答を評価
Nature Immunology
2023年5月30日
オーストラリア先住民族では、一般的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種によってロバストな免疫が誘発されるが、併存疾患のある人や慢性的な病的状態が既にある人の場合、ワクチン接種後に観察される抗体応答が弱いことが明らかになった。オーストラリアの先住民族に関する今回の研究について報告する論文が、Nature Immunologyに掲載される。著者らは、先住民族は慢性の併存疾患を有する割合が他に比べて不釣り合いに高いので、これらの知見は先住民族にとって重要だと述べている。
オーストラリア、ブラジル、米国の先住民族集団では、非先住民族集団に比べ、COVID-19の症例数が多く、死亡率も高い。米国では、アメリカ先住民族やアラスカ先住民族は非先住民族の人々に比べると、COVID-19による入院は3倍、死亡率は2倍以上であった。アボリジニとトレス諸島民(オーストラリア先住民族と呼ばれる)は、糖尿病、慢性呼吸器疾患、慢性腎疾患の罹患率が不釣り合いに高いが、COVID-19のワクチン接種に対する応答を評価した研究はほとんどなかった。
Katherine Kedzierska、Jane Davies、Thi H.O. Nguyenらは、オーストラリア先住民族58人と非先住民族39人について、ファイザー社・ビオンテック社製ワクチンの初回、2回目、3回目の接種前と接種後6~28日の抗体応答を詳しく調べた。その結果、オーストラリア先住民族の血中では重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)特異的な抗体レベルが低いこと、それは年齢とこの集団の併存疾患の多さと相関していることが分かった。さらに、併存疾患を持つオーストラリア先住民族ではワクチン接種前の抗体に特異的なグリコシル化パターン(G0)があるが、併存疾患がない先住民族にはこれが見られないこと分わかった。G0抗体は炎症促進性であると考えられており、これまでにインフルエンザワクチン接種後の抗体レベルの低さに関連していることが分かっている。興味深いことに、著者らが別の非先住民族集団69人(そのうちの38人は、糖尿病、腎臓疾患のいずれか、あるいは両方を持つ)を調べたところ、やはりワクチン接種前にG0抗体が高めであり、ワクチン接種後の抗SARS-CoV-2抗体が低いことが分かった。このことは、これらの特徴が慢性の病的状態にある人に一般的に当てはまる可能性を示唆している。
著者らは、これらの知見は慢性の病的状態に悩む全ての人々に重要な意味を持つと強調し、結論として、今回の研究により、先住民族集団と慢性の病的状態にある人全てに、COVID-19ワクチンの早めの接種と追加接種を勧める免疫学的基盤が得られたと述べている。
doi:10.1038/s41590-023-01508-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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